「王になった男」70点(100点満点中)
2013年2月16日(土)より 新宿バルト9、丸の内ルーブルほか全国ロードショー! 2012年/韓国/131分/カラー/5.1chサラウンド/日本語字幕:根本理恵 配給:CJ Entertainment Japan
監督:チュ・チャンミン 脚本:ファン・ジョユン(『オールド・ボーイ』) 撮影:イ・テユン 出演:イ・ビョンホン リュ・スンニョン ハン・ヒョジュ キム・イングォン チャン・グァン

あるべきリーダー像

政府が映画産業に深くかかわる韓国は、いわばプチハリウッドといえる。親玉のハリウッドは「ゼロ・ダーク・サーティ」を送り出したが、韓国は同じく大統領選挙(12月)の直前(9月)に「王になった男」を公開し大ヒットさせた。その、きわめて政治的な両作品が日本では同じ週に公開されるのだから、奇遇というほかはない。

1616年、朝鮮王朝。暴君とよばれた光海君(イ・ビョンホン)は、常に暗殺を恐れる身であった。そんな折、彼にそっくりな道化師(イ・ビョンホン 2役)が発見され、影武者として採用される。だが、心優しく陽気な性格は王と正反対。側近たちは正体がばれないよう尽力するが……。

影武者ものとしてはほとんど王道と言っていい設定だが、韓国映画とこの手のコミカルかつライトな万人向けドラマは相性がよく、だれにでもおすすめできるエンターテイメント時代劇である。

とくに、エッチじゃないほうの下ネタはいかにもコリアンムービーらしいギャグで思わず笑った。なぜ彼らはそんなにトイレ関係にこだわるのか。これを日本の韓流ファンの女の子たち(注:35歳以上)が楽しむのかと思うと何とも言えぬ気分になる。

娯楽作品だから、笑いあり涙あり。とくに後半には「正しいリーダーとはどうあるべきか」との、本作がもっとも言いたかったであろうテーマを前面に押し出し、ぐいぐいと泣かせてくる。王が本物かどうかより、人間として本物かどうかで判断したある側近の表情とその後の運命にはぐっとくる。

不人気で、我が国の島根県に不法上陸するしかやることのなかった現実の前大統領には、良識ある韓国民もうんざりしていたのだろう。庶民のためになる政治を慣行しようとする男が主人公の本作は、彼らの溜飲を下げるものだったためか、大いに人気を集めた。晩節を汚したイ・ミョンバク氏も、こちらをこそ見習うべきであった。

さて、歴史フィクションである本作の主人公は一応実在の人物なのだが、この王は朝鮮王朝で唯一、ある選択をした人物である。映画を見ればその選択が何かわかるが、これは隣に強大な大陸国家を持つ韓国(朝鮮半島)の地政学的宿命に逆らったものだ。それが良い事だったかというと、これは微妙な気もするが、現実に中国と米国(&日本)の狭間で次の時代の選択を迫られている現代韓国にとって、これは一つの参考事例となろう。

このように、見た目はライトな時代劇でも、その問題提起は非常に重く現代的であるといえる。普通にカップルで何も考えずに見ても楽しめるし、政治的な深読みをしてもいい。使い勝手の良い一本である。



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