「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」55点(100点満点中)
The Best Exotic Marigold Hotel 2013年2月1日(金)より全国ロードショー 2011年/イギリス=アメリ
カ=アラブ首長国連邦/カラー/124分/英語、ヒンディー語 配給:20世紀フォックス映画
監督:ジョン・マッデン 脚本:オル・パーカー 原作:デボラ・モガー 出演:ジュディ・デンチ
ビル・ナイ トム・ウィルキンソン マギー・スミス デヴ・パテル
ディープなインドを疑似体験
世界を旅する人たちに聞くと、インドは特別な国らしい。たとえば人生で行き詰った時、ひきこもりになったりニートになったり、あるいはうつ病になったり。そういうときはインドに行くと何かに開眼し、生き返るらしい。
なにしろ川に遺体が流れてくる国である。欧米とも、日本を含む東アジアともまったく異なるその価値観が、結果的に自分自身の寛容と肯定感を与えてくれるというわけだ。
そんな憧れのインド旅行だが、その生まれ変わりを疑似体験させてくれるのが「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(11年、英・米・アラブ)。しかもインドを訪れるのが、英国人の老人グループときた。ガチガチの頑固者の英国人とくれば、世界で一番変わりそうにない人種。そこに本作の設定の面白さがあるわけだ。
死んだ夫が残した負債返済のため家まで失ったイヴリン(ジュディ・デンチ)は、インド移住を思いつき、インターネットで見た高級リゾートを訪れることを決める。彼女のほかにもワケありな合計7人の英国人男女が集まり、期待に胸ふくらまして現地に到着するが、肝心の「マリーゴールド・ホテル」は写真とは似ても似つかぬオンボロな廃墟だった。
うん、よくあるよね、と思わずうなづいてしまいそうな展開であるが、ここにはやたらとハイなやる気満々な管理人がいる。「将来は高級ホテルになる予定です」とうそぶくこの若者のエネルギーの前には、さすがの英国紳士、淑女もかたなし。やがてこの地の空気に感化されてゆく。
この映画は笑いがなかなかキレている。かつての宗主国の金持ちジジババたちが、若き上昇国家のバイタリティにてんやわんやする構図は、笑いを生むベースとしては有利である。インドのバスに満員の文字はない、には私も思わず笑わされた。
とはいえ、インドのディープな滞在を疑似体験、という肝心の本筋が少々弱いのは否めない。なぜインドに行くと変わるのか説明不足に感じるし、老人たちが変わるまでに、もう少しインパクトのある、予想を超えるエピソードのひとつも考え出してほしかったところ。
結局これを見ても、まあこんなもんだね、予想の範疇だね、といった印象。もう少し頑固に、インドに抗う人物がいてもいいように思う。
現状に不満を持っていて、だけどインドまで行っていられない人にちょっとした気分転換をもたらしてくれる映画。カレー屋さん2回分我慢してみる価値があるかどうかは何とも言えないが、合う人、合わない人がわりとハッキリわかれそうな作品である。