「シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜」70点(100点満点中)
2012年フランス/84分/ギャガ 2012年12月22日(土)銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー
監督:ダニエル・コーエン 脚本:ダニエル・コーエン オリヴィエ・ダザ 音楽:ニコラ・ピオヴァーニ 出演:ジャン・レノ ミカエル・ユーン ラファエル・アゴゲ

気軽なフレンチコメディー

日本でもミシュランの格付けグルメ本東京版が発売されたばかりだが、星が増えるか減るかは、飲食店にとってはときに死活問題になるようだ。とくに問題なのは星が減るほうで、予約数は激減して経営を揺るがすこともあるという。

「シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜」は、そんな苦労をシェフの側から見せてくれるユニークなコメディー作品。ジャン・レノが、頑固一徹ながらその性格ゆえに星落ちの危機に瀕するベテランシェフを好演している。

ジャッキー(ミカエル・ユーン)は優れた「舌」の記憶力をもつ料理人だが、わがままな性格が災いしていつも職場が長続きしない。だが恋人が妊娠しているのにいつまでも職探しというわけにはいかず、ペンキ塗りのアルバイトを始める。たまたまそこにやってきた一流シェフのアレクサンドル(ジャン・レノ)は、彼が作ったスープを一口飲み驚愕する。それはかつて自分が考案したレシピそのものだったのだ。

審査員をうならせる新メニューを考えなければ星落ちとクビの悲劇が待っているシェフが、超人的な記憶力を持つペンキ塗りと出会う。かつて自らが考案したレシピをすべて記憶し再現できる彼の才能を得て、再び快進撃を開始できるか……という展開。

お偉いシェフもしょせん雇われの身。オーナーと審査員に嫌われたらおしまいという厳しい現実がそこにはある。収入も責任感の大きさも段違いだが、根本的な立場の弱さはあまり変わらない。だからというわけでもなかろうが、アレクサンドルに容赦ないダメ出しや突っ込みを入れまくるジャッキーとのやり取りが笑いを誘う。こういう気軽なコメディーは、お正月に見るのにぴったりだ。

アレクサンドルが一方的に助けられるわけではなく、両者が補完しあう関係になっている点が心地よい。そもそもジャッキーがアドバイスするレシピは、あくまで過去のアレクサンドルの優れた仕事そのもので、彼はそれを思い出させているにすぎない。だが、才能の復活にもブレーンや手助けが必要で、それがこの上なく貴重なものであることくらい、大人なら誰でもわかっている。だからこの話は大人が見ると痛快に感じられる。

ジャッキーが記憶していない、高級ワインについて色々教えてやる場面が心憎い。ちなみにここで彼らが飲んでいるペトリュスのヴィンテージワインは1本数十万円もする、さすがのジャッキーも知らなくて当然か。

「エル・ブリ」でおなじみの分子料理を皮肉ってみたり、トンデモニッポンが出てきたりと、フランス映画らしい妙ちくりんなシーンもあったりするがこれもまた味。ジャン・レノはドラえもんを演じてくれるくらい親日家なのだから、笑って済ませられるというものだ。

才能が生かせる場所を見つけるというのは、全世界的不況の今、人々が願ってやまない夢の一つ。それを見せてくれるからこの映画は心温まる。もっとも、その程度のことがまるでファンタジーのように非現実的になってしまっている現状は問題だが。



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