「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]」70点(100点満点中)
2012年日本/124分/松竹=アスミック・エース 2012年12月22日(土)丸の内ピカデリー他全国ロードショー
監督:金子文紀 脚本:神山由美子 原作:よしながふみ 出演:堺雅人 菅野美穂 尾野真千子 柄本佑

前作より良くなった

男女逆転設定によるユニークな時代劇「大奥」シリーズの第二弾。特殊な伝染病により男子が激減した江戸時代を舞台に、将軍職をつとめる「女性」の生きざまを描いた物語だ。

この奇妙なアイデアは、いったい何のために(どんなテーマを描くために)採用されたのか。

このシリーズを鑑賞するにあたって私が真っ先に思ったのはそこで、両作品とも注目していたわけだが、このパート2は前作よりもその点においてはっきりとしたポリシーが感じられて好感を持った。なんといっても、この男女逆転設定に必然性を持たせられなければ、この作品はただの奇をてらった腐女子向けハーレム疑似体験に落ちてしまうのだから。

元禄時代。5代将軍・綱吉(菅野美穂)の時代。貧乏公家の右衛門佐(堺雅人)は持ち前の才覚を発揮し、瞬く間に大奥の実権を掌握する。だが、選りすぐりの男たちを揃えた彼の思惑とはうらはらに綱吉は一向に懐妊せず、周囲の焦りは増すばかりだった。

いろいろな楽しみ方ができる作品とは思うが、個人的には安定した世を続けることの困難さ、つまり権力をつつがなく継承させるシステムについていろいろと考えさせられるものがあった。

史実では将軍家は男系継承だったわけだが、このフィクション世界では女系ということになっている。これは男子が疫病のため数少ないという事情によるものだが、こうしてみると女系継承システムは非常に危うい。「将軍」が世継ぎを妊娠できる期間に生物的制限があるのが最大の理由で、なるほどいろいろと批判されがちな男系継承システムも、不要な混乱を避けるためには理にかなったものであったことがよくわかる。

とくに女性がこの作品を見ると、普段は意識することの少ない為政者・権力者の苦悩というか、重い責任感の重圧というものを実感できるだろう。これは女性主人公だからこそ、共感を持って認識できるというわけだ。

菅野美穂演じる綱吉は、早く世継ぎを生み育てることが日本国の平和と秩序の維持になると理解しているから、文句も言わず毎夜の営みに全力を傾ける。それでも妊娠できない。だから延々と毎晩、男を変え、その身体を受け入れる。

時には権力者の前で緊張しきった男子をリラックスさせ、その気にさせる必要もある。直接的に描かれるわけではないが、ナイーブになっている男を子作りできる状態に持っていくのは、これは相当気力と体力を使う作業になるだろう。毎晩そんなことをしなくてはいけない、そんな宿命を自分に背負えるだろうか、そんな風に女性観客が感じたとしたら、この作品の存在意義は大いにあるのではと思う。

現代日本でも、皇室はもちろん、いわゆる名家とよばれるような人たちは多かれ少なかれ同じような苦労と責任感のもとに生きている。生まれた瞬間から背負う宿命から、彼らは逃げることができない。ときにそれを人権問題としてとらえてしまうような安直な発想から、この映画を見ることで脱出できるかもしれない。

ただ問題は、こうしたテーマ性がやや伝わりにくい点か。

クライマックスではこの重責からの解放が、それがいかにとてつもない出来事かという点とともに描かれ、その切ない行く末が感動を誘う。

前作に比べ、キャストが若者層にアピールする面々でなかったために興行面では苦労するだろうが、内容はよくなった。次回作は、女性向けなのに骨太なテーマ性、という本シリーズのミスマッチな魅力をさらに極めてほしい。具体的には、見た目をさらに徹底した本格時代劇のそれにするとよい。絵空事なのは男女逆転という一点のみ。中途半端にしてはだめだ。

あとは、もっと夜の営みの描写に力を入れるべきであろう。堂々と女優を裸にして、見ているだけで自分も大奥を作りたくなるようなエロエロ展開が絶対に必要である。

だいたい女性だって、本音ではきれいな女優の裸を見たいのである。肩から上のアップでちょっぴりアンアンあえいで終わり、そんな濡れ場じゃ彼女たちは濡れない。そんなものは当の女性たち自身がちいとも求めていない事を、映画作りにかかわる人間たちは一刻も早く知るべきである。

プライドが高く恥ずかしがりやなオンナノコたちは、男どもと違ってAVだのを借りに行くわけにはいかぬ。ようは、彼女たちに正当な理由を用意してやることが肝要なのであり、それがこうしたオシャレ系セクシー映画に課せられた使命でもある。

話題になってるから、オシャレな映画だから、という言い訳ができたから、「ヘルタースケルター」はあんなにエロ満載でも女性客で満席になったのだ。あの映画を見に行った女性客の本音は、ぶっちゃけ沢尻がどんなカラダをしているかを見たかった、そこがもっとも大きい。鑑賞動機がほとんど私と同じなのである。

そのあたりを金子文紀監督以下、製作スタッフは肝に銘じて次回作に挑むように。全力で応援する。



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