「フランケンウィニー」55点(100点満点中)
Frankenweenie 2012年12月15日(土)全国公開 ディズニー デジタル 3D同時公開 2012年/アメリカ/カラー/87分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
監督:ティム・バートン 製作総指揮:ドン・ハーン 声の出演 ウィノナ・ライダー マーティン・ショート

悪くはないが、アレはティム・バートンにとっても苦渋の選択だったのでは

最近、いろいろと復活する人が多い。自民党の総裁とか、コケても高得点なフィギュアの金メダリストとか、麻薬と逃亡劇でおなじみの美人タレントとか枚挙にいとまがない。

そんな中公開されるディズニーアニメ冬の勝負作「フランケンウィニー」のテーマもまさに「復活」。先ほど挙げたのは永遠に戻ってこないほうがいい連中ばかりだが、本作で復活するのは交通事故で死んだ愛犬。そのせつないファンタジーは、あなたの心の中にさざ波を立てるだろう。

アメリカのどこか、郊外の住宅街。科学が大好きな少年ヴィクターは、友達はいなかったが愛犬スパーキーがいたので寂しくはなかった。だが、不幸なことに交通事故でスパーキーはこの世から去ってしまう。悲観に暮れる中、学校の授業で筋肉が電気で動くことを知った彼は、ある方法をひらめき、スパーキーを甦らせようと決意する。

これはティム・バートン監督の幻のデビュー作を、長編として作り直したものである。84年の同名短編は同じモノクロによる素朴なストーリーだったが、それはそれはすばらしい、感動的な作品であった。あれで手ごたえを感じた彼は、その後「シザーハンズ」で自らのスタイルを確立し、同時に大ブレイクを果たして今に至る。

かねてから、「あの84年版はその気になれば長編にできた」と未練がましいことを言っていたティム・バートンだが、きっと「ピーウィーの大冒険」(85年、米)がデビュー作となってしまったことがよほどトラウマなのであろう。このたび満を持してセルフリメイクすることになった。

ストップモーションアニメとは、簡単に言えば粘土か何かで作った人形を少しずつ変形させながら1コマずつ撮影すれば、再生時に動いて見えるというもの。原理自体は単純だから、その気になればだれでもできる。かくいう私も暇なとき、公園で恐竜の人形を使って作ってみたことがある。どこからともなく現れて見学をはじめた子供たちの鼻を垂らした顔が背景に映っている点を除けば、そのままディズニーが買い取ってもおかしくない出来に仕上がった。

もっとも、消費者に公正な映画情報を届けることが私の天命であるから、そうした小銭稼ぎなどするつもりは毛頭ないが、「フランケンウィニー」のアニメとしてのクォリティもそれに負けず相当高い。

この手法を得意とするティム・バートン率いるスタッフ総出で、1週間かけて5秒しか作れないというのだから推して知るべし。私の所有するトリケラトプスと比べればいささかすぐれた人形を使っているとはいえ、このハイクォリティは驚愕すべきものがある。パッと見ればこれは、普通の3DCGアニメじゃないのかと思うほどに滑らかだし、表情豊かに動きまくる。スパーキーの愛らしさは、ゾンビ犬になったあとも損なわれることはない。

とはいえそれは観客にとってだけの話で、作品世界の中の住民にとってはスパーキーは動く死体にすぎず、バレたら大変である。ヴィクターにとっては変わらぬ愛犬だが、彼以外には気持ちが悪い化け物である。

このテーマこそティム・バートンの本領発揮。被差別者、異形なるもの、そうしたものへの暖かな視線。そこから感じられるのは、愛というもののやっかいさと、素晴らしさである。

オタクな監督が常に描き続けるのはいじめられっ子賛歌というべき物語。ヴィクターは、若き日のティム・バートンそのものであろう。一歩間違うとネクラな奴で終わっていたところだが、いまではハリウッドの誇る巨匠。

とはいえ、おやっと思うところもないではない。どことは言えないが、あのオリジナル短編の唯一のマイナス点、あれがなんとこの新作でも変わっていない。リメイクするなら絶対にあそこだけは変更するだろうと思っていたから、これは大きなショックであった。ティム・バートンさん、これで本当に満足なのかい?

また、長編に引き延ばしたせいで追加されたアクションシーンの数々も、比べてみると蛇足であった。何でもアリになってしまうと、落雷→スパーキー蘇生の奇跡の驚きが相対的に薄れ、感動もなくなる。

結局物語には、適切な長さというものがあって、お金をかけて長くすればいいというものではない。この新版も悪くはないのだ。だから私は、どちらも見ていない人は、この新劇場版だけを見てそこそこの満足で帰路についたほうがよいだろうと結論付ける。

なお、3Dにこだわる必要はあまり感じない。絵柄も内容も少々おっかないが、勇気がある幼稚園児にはこれくらいの映画を見せてあげるのも、決して教育には悪くはないだろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.