「ホビット 思いがけない冒険」30点(100点満点中)
The Hobbit: An Unexpected Journey 2012年12月14日(金)丸の内ピカデリー他、全国ロードショー 2012年/アメリカ、ニュージーランド/カラー/170分/配給:ワーナー・ブラザーズ映画
監督:ピーター・ジャクソン 原作:J・R・R・トールキン 脚本:フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ピーター・ジャクソン、ギレルモ・デル・トロ 音楽:ハワード・ショア 出演:イアン・マッケラン マーティン・フリーマン ケイト・ブランシェット オーランド・ブルーム イアン・ホルム クリストファー・リー ヒューゴ・ウィーヴィング イライジャ・ウッド アンディ・サーキス
意欲的な映像的挑戦だが、その他の要素が荒っぽい
映画『ロード・オブ・ザ・リング』3部作は、アカデミー賞11部門受賞の驚異的な記録で人々に記憶されている。イケメン界11部門受賞の私としても親近感を持つシリーズだが、「ホビット 思いがけない冒険」はその前日譚というべきもの。前作の舞台から60年をさかのぼり、かつての主人公フロドのおじさん=ビルボの冒険を描いている。
ホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)は、あるとき灰色の魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)から突然冒険に駆り出される。その目的は、13人のドワーフたちの故郷を奪ったドラゴンを退治し、すべてを取り戻すこと。平和主義のホビットであるビルボはなぜ自分がそんなものについていかねばならぬのかさっぱりわからなかったが、ガンダルフにはある予感があるのだった。
反原発運動の雄・山本太郎が衆議員選挙に立候補し、確か「永遠にひとり」とかいう立派な政党まで作り上げたが、主人公のビルボさんは幸いひとりではなく仲間がいた。この物語は、小柄だが頑強な肉体を持つドワーフと、機転が利いて素早いホビット、そして皆を束ねるリーダーの魔法使いというなかなかバランスのとれたパーティーの冒険物語である。
原作は「指輪物語」と同じくJ・R・R・トールキン。彼が子供に読み聞かせるため、『指輪物語』より以前に作り上げた話だ。だからストーリーはシンプルだし、指輪物語ほどのシリアスさ、ダークさはない。
だからこの映画化も当初は2部作で予定されていたが、『ロード〜』の監督ピーター・ジャクソンが製作サイドといろいろもめて公開がずれ込み、その間に予定されていた別の監督も降板せざるを得なくなってしまった。その結果、結局ピーター・ジャクソン本人がこのシリーズも担当(監督)することになり、3部作にスケールアップしたという経緯がある。
国民の生活が第一党もびっくりの二転三転だが、ハリウッドではよくあるグダグダでとくに珍しくはない。こうしたケースではほとんど例外なく駄作となるが、それ以外の弊害はない。あったら困るが。
さて、そうした背景を念頭に置いてみると、これはその割にはなかなか頑張ったほうといえるだろう。映像のクォリティは『ロード・オブ・ザ・リング』に劣るところはなく、あの重厚な世界観がもう3本楽しめるのだから、ファンは答えられまい。
ただし、キャラ立てはうまくなく、前シリーズと比べてあまりに小粒なこの登場人物たちで3本の超大作を持たせられるのかは不安が残る。同じキャストが演じているエルフ族やゴラムをはじめとしたキャラクターたちが、「ドーダ、出たぞ? うれしいべ、思い出すべ」といわんばかりのたいそうな演出で現れるたび、作り手のドヤ顔が浮かんでどうも乗り切れない。ここいらへんは、見る側も期待感をむしろ思いきり映画館に持ち込んで、アゲアゲで没頭するほかない。
そう、没頭といえばそれをスポイルするのが3D眼鏡である。電池入りのXpanDの液晶シャッター方式という悪条件だったからだと思うが、170分間はちょいとうっとうしい。
そもそもこの映画は、通常24コマのところ48コマという特殊な撮影方法で作られており、なめらかな動きと高精細なデジタル映像が最大の見どころ。家庭用カメラをいじくる人はご存知と思うが、60Pといった高いフレームレートになるほど映像は綺麗になるが、同時にビデオっぽい安っぽさも出てくる。
この点はピーター・ジャクソンも当然気にかけており、照明や構図などで相当気を使った様子がうかがえる。映像作りをする人にとっても、本作はいろいろと参考になるはずだ。
で、3D眼鏡だが、あれはサングラスのようなもの。わざわざ高精細でなめらか、照明に徹底的にこだわった映像を、そんなものをかけてぼかしてみるのはどうにも矛盾している。事前にどんな方式の3Dかを映画館に確かめて、心配だったら2D版を見られないか検討したほうが良いというのが、私の皆さんへのアドバイスである。