「アウトレイジ ビヨンド」65点(100点満点中)
Outrage Beyond 2012年10月6日より新宿バルト9&新宿ピカデリーほか全国公開! 2012年/日本/カラー/114分/配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
監督・脚本・編集:北野武 出演:ビートたけし 西田敏行 三浦友和 加瀬亮
ヤクザの命で宝くじ
今年、アメリカでは「ハンガー・ゲーム」が大ヒット。貧乏地区の若者を集めて最後の1名まで殺し合いをさせるルールは高見広春による小説「バトルロワイヤル」そのものだが、その映画版で殺し合いゲームを統括する教師を演じたのがビートたけしこと北野武監督。彼が、このタイミングでやくざのサバイバルゲームというべき「アウトレイジ ビヨンド」を公開するのだから、偶然とは面白いものだ。
前作のラストから5年、策略により加藤(三浦友和)は山王会会長の座に上り詰めていた。かつて大友組組長(ビートたけし)のもとにいた若き経済ヤクザ石原(加瀬亮)は加藤の右腕となり、彼らは古参幹部を軽んじる実力主義、金もうけ主義を進めていた。そんな状況を好機と見た悪徳刑事片岡(小日向文世)は、花菱会若頭の西野(西田敏行)らを焚き付け、東西の大組織同士の対立を進めていく。
前作同様、だれが死ぬかわからぬ緊張感のもと、こわもてのヤクザたちが殺し合いをするバイオレンスアクション。今回は黒澤明監督の「用心棒」風味がより強くなり、トリックスターの小日向文世があからさまに両ヤクザ組織をあおりまくり、共倒れを狙う展開となる。即興演出で知られる北野監督にしては珍しい、脚本の面白さを楽しむタイプのサスペンスにもなっている。
私が気に入っているのは前半にある、替え玉男の取り調べシーン。上から言われて仕方なく出頭してきたチンピラを、ちゃんと(?)起訴有罪にもっていくべく小日向文世刑事が強引な誘導尋問をする様子は、ほとんどコントで爆笑確実。
このシーンは、張り詰めた空気を緩ませ次の見せ場を前に観客の気持ちをリセットする効果を生んでいる。どんなに濃厚で甘いアイスクリームでも、なめ続けていれば冷感で舌がマヒするのであり、途中でウエハースをはさむことが重要である。
それと同時に、現実の取り調べも似たようなもんだろ、という北野監督一流の皮肉も込められている。笑いの中に社会風刺を取り入れるのは、優れたコメディアンの専売特許である。
これはまさに皮肉なことに、他人のパソコンを踏み台にするクラッカーの手口についていけなかった警察が、自白強要で大学生らを冤罪逮捕したことがおそらく確実といわれる現在、見事な先見の明といえるだろう。
惜しむらくは、後半に入るとこうした適度な笑い、すなわち「意図的な緩み、まき直し」がなくなり、張り詰めた糸が徐々にたるんでいくように映画の空気もだらけてくる点。
立て続けに男たちがぶち殺される展開は、後半になるとどこかバカバカしく見えてくる。何やってもどうせ最後は死ぬ。あまりにも生存率が低すぎて、これでは命を懸けて賞金ゼロ円の宝くじをやっているようなものだ。これに説得力を持たせるには、やはり適度なまき直しと、肩透かしのような変化が脚本中に欲しい。
それでも結論としては、前作同等の面白さはキープしており、解説したようにキラリと光る瞬間もいくつか見受けられる。豪華な役者たちの演技も申し分ない。前作を楽しめた人ならば、問題なく満足できるだろう。