「ラ・ワン」65点(100点満点中)
RA ONE 2012年8月4日より東京都写真美術館、他全国順次公開 2011 年/インド/156分/ヒンドゥー語 提供:マクザム、パルコ、アジア映画社 配給:パルコ 配給協力:アップリンク
監督:アヌバウ・シンハ キャスト:シャールク・カーン カリーナ・カプーア アリジュン・ランパル

もっと突き抜けててもいい

最近のテレビはお年寄りの安否確認までするそうだが、こうした細かいところに手が届く式の発想は日本の良い所でもある。だが、ときにこうした心遣いがおせっかいであったり、息苦しく感じるのもまた事実である。

その点、他国は皆おおらかである。特にその最たる国といえばインド。彼らは、あまり細かいことは気にしない。それが映画作りにも現れているのが、「ロボット」の姉妹編というべき「ラ・ワン」である。

英国のバロン社は、デジタル世界のデータを物質化する画期的な技術を開発する。そのテクノロジーを応用した対戦格闘ゲーム「ラ・ワン」をプレイした同社のシェカル(シャールク・カーン)の息子プラティクは、ゲームを途中でやめたことからゲーム内のキャラクターに、現実世界で追われることになる。

先日公開され話題となったトンデモ超大作「ロボット」の姉妹編ということもあって、アクションのむちゃぶり、唐突なミュージカルの挿入、主人公の濃すぎるキャラ設定等共通する部分が多い。こうした味わいの映画がこれほどの短期間に続けて味わえるというのは、インド映画好きにはたまらない幸運である。

前半はマイケル・ジャクソンのモノマネをするなどコメディアン然としている主人公は、後半になるといきなりイケメンキャラに豹変。演じるシャールク・カーンはインド映画圏では知らぬ者のいない大スターである。

さて、この映画で全編にわたって繰り広げられる「細かいことは気にしない」式は、時折挿入されるミュージカルシーンにも適用される。KARA顔負けのワイルドな尻振りは迫力満点だが、踊る女の子のウエストの太さとかヒロインのぎこちない動きといった、日米その他の映画であれば華麗な修正テクでなんとかしそうなテイクも堂々と採用している。そんなことより明るい照明のもと華やかな絵作りをする、そこに重きを置いている模様である。

笑いは全体的にキレがあり日本人でも大丈夫だが、ダジャレレベルのくだらないギャグも少なくない。そうしたものを物語の流れをぶった切るように入れてくるあたりが何とも笑える。中国を小ばかにするネタを忘れないあたりもインドらしい。

本作はインド映画としては破格の大作だが、どこか時代遅れな感じがする見てくれが微笑ましい。話の設定じたい陳腐だし、劇中のゲーム画面も日本的。その他のアクションシーンには「アイアンマン」ぽさが入っていたり、ちょいと古いが「マトリックス」も加わっている。

世界のあちこちから面白そうのものを借用している感じだが、細かいことは気にしない。また何となく彼らがやると許せてしまうというのも不思議だ。一見ありがちな要素でも、インドらしい個性で包んでしまえば別物に見えてしまうからだろうか。どんな料理の個性もカレー粉をかけたら吹き飛ぶ、そんな感じか。

アクションは「ロボット」同様、車がふっとび、高層ビルをひとっ跳びというとんでも系。ラジニカーントもワンシーン登場する。どうせなら、もう少し活躍できる場面で出してくれればなあという思いは残る。

エンドロールではメイキング映像が見られるが、これがまたこんな撮影は危険すぎて普通しないだろうというものばかり。最後の最後まで驚きにあふれている。

このくらいのトンデモ作が定期的に見られるなら、インド映画も日本市場でやっていける。「ロボット」ほど吹っ切れてはいないけれども、アクション映画として普通に楽しめる。CGのチープ感もワイヤーの釣り丸出し感も、どこか愛おしいものがある。



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