「マダガスカル3」70点(100点満点中)
Madagascar 3: Europe's Most Wanted 2012年夏休み 新宿ピカデリーほか全国にてロードショー 2012年/アメリカ/カラー/93分/配給:パラマウント ピクチャーズ
監督;エリック・ダーネル、コンラッド・バーノン 製作;ミレーユ・ソリア、マーク・スウィフト 脚本;ノア・バームバック 音楽;ハンス・ジマー 声の出演:ベン・スティラー クリス・ロック ジェイダ・ピンケット=スミス デヴィッド・シュワイマー

追跡アクションは一見の価値あり

「マダガスカル3」は、沢山の動物たちとサーカスという、子供たちの大好きな組み合わせのアニメ映画。アメリカでは大ヒットし、2005年の1作目から続く3部作の最後を飾った。

ニューヨークの動物園出身ながら、あれやこれやでマダガスカル島からアフリカ大陸までたどりついたアレックス(声:ベン・スティラー)たち。ホームシックになったアレックスらは、音沙汰ないペンギンズを追ってモンテカルロへと泳ぎ渡る。ところがそこには、恐ろしい動物公安の女警部デュボア(声:フランシス・マクドーマンド)が待っていた……。

シリーズが始まって7年。7年といえば、リアルタイムで見ていたら小学校を卒業してしまう程の年月である。──とはいえまだ大人になっていない歳でもあり、リアルタイム世代を取り込むのにぎりぎりの年数。さらに途中参加の観客にも、DVDという鑑賞手段が準備されているから問題なくすそ野を広げられる。つまり過去のシリーズ遺産を活性化させられる。まさに登場タイミングはばっちり、一石二鳥の最新作である。

……というのが一般的な分析であるが、この映画の場合にはその余裕あるシリーズの継続期間じたいがとくに良い方向に働いた。

何しろこのパート3の製作期間は3年近く。近年まれにみる見事な追跡アクションとなったモンテカルロの場面などは、そのうちなんと1年半をつぎ込んだという贅沢な環境である。こういう馬鹿げた力技は、世界中見渡してもアメリカにしか出来ず、世界中のアニメ作家らが羨望のまなざしで見るものである。

このアクションシーンときたら、思い切ったローアングルを多用したスピード感、構図の新しさ、カメラの自由さ、そして予想をはるかに上回るつきぬけ感など文句のつけようがない。

動物公安局などといいながら、そのじつ単にライオンの首を自宅に飾りたいというだけの、かなりサイコなフランス女が、人間技を超えた恐るべき身体能力で追いかけてくる。肉弾戦でもライオンのアレックスに全く引けを取らず、その常識外れぶりには大笑いである。

そんな彼女の手から逃れるため、主人公たちはやむなくサーカス列車に乗ることになる。

ここからは、故郷ニューヨークでの公演を勝ち取るため、落ちぶれサーカス再生に主人公たちが協力する展開となる。時節柄社会派そのものだったパート2と比べると、政治的な含みのようなものも感じず、気楽に楽しめる。

イタリアンマフィアな毒舌ペンギンズなどキャラクターの面白さも変わらず。日本語吹き替え版でも、精一杯本国版の雰囲気を再現しようとした工夫がうかがえる。予想もしないところでオヤジギャグが入ってきたりして、だれもが不意を突かれて笑ってしまうだろう。

また、この3作目スタッフのアクション作画にかける情熱はほとんどギャグというべきものである。たとえば劇中、バナナを銃弾としたものすごい迫力のバナナマシンガンが登場する。

バナナの皮が薬莢のようにばらばらと撒かれるわけだが、そのあまりにくだらないアイディアをド迫力に仕上げるため彼らは、なんと実際にこのバナナガンを作り、標的に向かってバナナを大量発射。それをマトの裏側から撮影してアニメの作画に生かすという、仕事熱心なのか遊び半分なのかよくわからない製作方法をとったのである。

こんな無駄、いやこだわりが許されるのも、前作までの大ヒットのたまもの。そして期待通りこの3作目も世界中で好発進を記録している。

絵作りについての恐るべきそうしたこだわりとは裏腹に、脚本は少々荒っぽい。サルと熊の恋愛パートなどはもっと突っ込んで感動的なクライマックスに持ち込んでほしいし、終盤のサーカス場面は幻想的演出が過ぎて、感動を逆にスポイルする。このシリーズは、多少ぶっ飛んでいてもいいとは思うが、やはり締めるべきところは締めて欲しい。

話のテンポはとてつもなく早く、省略も大胆である。飽きっぽい幼児に配慮したのだろうが、ストーリーを正確に理解するのは難しいか。画面の動きが激しく刺激も強い。鑑賞の際は注意が必要かもしれない。特にこの映画は3Dでも公開され、初めて立体視を体験する子などはかなりびっくりしてしまうだろう。

ただ、この映画の3D効果は明るい画面のたまもので、大変楽しい。見世物的に飛び出す演出も、本来こういう使い方をしてこそといった具合の好感が持てるものだ。

もちろん、大人向けの笑いや音楽をふんだんに盛り込んだ、シリーズの魅力は今まで通り。前作のようにシニカルなテーマ性が影を潜めたのは残念だが、それでも小学校低学年ぐらいのお子さんとみるにはなかなかのチョイスだろう。



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