「ヘルタースケルター」60点(100点満点中)
2012年7月14日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2012年/日本/カラー/127分/配給:アスミック・エース
監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ 原作:岡崎京子 キャスト:沢尻エリカ 大森南朋 寺島しのぶ 綾野剛 水原希子 鈴木杏(友情出演)

ハイパーおっぱいクリエーター

アイドルや女優とは大変な職業である。目が出る人は少ないし、人気者になっても様々なプレッシャーとの戦いがある。人気を維持するためには壮絶な体作りをしなくてはいけないし、ライバルは次から次へと現れる。なかには元彼にH写真を流されて大宰府送りになる自滅型アイドルもいたりするが「ヘルタースケルター」のヒロインはさらに壮絶な体験をすることになる。

芸能界の頂点に立つ人気モデルりりこ(沢尻エリカ)には、重大な秘密があった。彼女の美貌のすべては、全身整形と多量の薬剤投与によって維持されていたのだ。だがあるときりりこは、自分の肉体がその後遺症で崩れ始めたことを知る。強力なライバルとなりそうな後輩モデル(水原希子)の登場による焦燥感もあって、精神のバランスまで崩壊しつつある彼女は、マネージャー(寺島しのぶ)にサディスティックな仕打ちをするなどおかしな行動をとり始める。

毎度お騒がせの沢尻エリカが、脱ぐ脱ぐ詐欺ではないかとの事前の心配をよそにすべてをさらけ出し、男性週刊誌界隈を騒がせている話題作。

岡崎京子の原作漫画とほぼ同じストーリー展開だが、ラストシーンを含めて蜷川実花監督によるさらなる過激演出が施されている。

キャスティングもおおむね原作から受ける印象通り。蜷川監督によるこのキャラクター配置は、近年まれにみる的確さといえる。

具体的にいうと、美人は思いっきり美人に、ブスは思いっきりブスにしっかり描いている。これは、簡単なようでなかなかできない。特に、あれだけ思い切ったりりこの妹役のキャスティングはそうそうできまい。だがこの役柄は、整形前のりりこを想起させる重要なポジションなので相当思い切ったルックスの人物を配置する必要がある。それを蜷川監督は理解し、見事にやりきった。その勇気を評価したい。

主要なキャストの中で最もよかったのは水原希子。主人公りりこを脅かす後輩モデルの役である。このキャラクターは原作同様、総天然の最強キャラクターである。

最初に画面に登場したときからわかりやすい「美」を振りまくのが主人公の沢尻エリカであるのは言うまでもない。だがそれほど美しい沢尻を、水原が出てきた瞬間、観客誰もがこりゃ完全に負けたと思う。これは上手かった。沢尻にとっては残酷だが、これは演出としては大正解である。水原の個性的な顔立ちのもつ華やかさ、ポーズの美しさは主人公の数段上に見える。

もう一人のヒロインというべき寺島しのぶの扱いも鬼畜過ぎて笑える。ノーメイクに近く、服装も無頓着。キャタピラーの撮影現場から抜け出てきたような彼女が、ワガママ沢尻に無理難題を押し付けられる。そのたびに弱りきって泣きそうな表情をするのだが、申し訳ないがそのたびに笑ってしまった。ずいぶんとひどい役を引き受けたものだ。

男性週刊誌にあおられた男性読者諸氏のため沢尻の話に戻ると、皆さんの目的をもっとも達せられるのは窪塚洋介演じる彼氏との濡れ場である。個人的には窪塚の浮世離れした口調を聞くたびに冗談でやっているようにしか思えぬ部分もあるのだが、ここでの彼の動きは見所がある。なにしろ沢尻の胸が大きいものだから、片手で両乳首を同時にこねまわすといった技を窪塚は駆使することができる。これにより、鑑賞者には沢尻胸の質感、具体的には予想以上の柔らかさが実感できる。本年度濡れ場のファインプレーベスト3に入るナイスサポートといえるだろう。

ここからは世界的専門家としての分析となるが、あの粘度にあのサイズだと、5年を待たずして見ごろは過ぎる。東京のソメイヨシノでいえば満開プラス4日といったところであり、脱ぐタイミングとしてはギリギリであったろう。

さらによかったのは、蜷川実花監督が沢尻エリカの身体のあらをうまく隠している点。私レベルになれば、この監督が沢尻が比較的美しく見える角度、ウエストが細く見える角度などを慎重に選んで撮影しているのが手に取るようにわかる。これが、プロの写真家として経験を積んだ眼を持つ者の仕事である。

とはいえ、相変わらず沢尻の演技は平板で、泣く演技などは恥ずかしくて見ていられないほど。過去最高にクールな演技してるよ自分、的なオーラがぷんぷん出ているのだが、実際は演技力がまったく追いついておらず、気の毒に過ぎる。

おそらく監督はあまり彼女の演技に口を出していないのだろう、私ならNGを出して何度でもやり直させたいと感じた箇所がいくつもあった。ファーストシーンのおっぱい初登場の瞬間をやり直させて何度も見たいとか、そういう意味ではもちろんない。

もともとこの原作の設定やストーリーはリアルに見えてリアルではなく、いくら何でもこんな話はないというもの。美容外科業界も笑ってスルーするレベルである。ただ、そこで描かれる女の猛烈な美への渇望と失うものの葛藤、美を失いゆく恐怖といった心理はこのうえなくリアルなものだ。

映画版もそこを描けるかどうかが肝なのだが、それには沢尻エリカの演技力がまるで足りないし、監督のドラマ作りの力も及ばず。結局役者も監督もまだ見た目中心なのであり、さらなる進化を期待する段階にとどまっている。

それでも、沢尻のおっぱいは見るに値する。その推定Dカップに敬意を表して今回はこの点数とする。花が残っている限り、今後も映画でどんどん脱いで、いや活躍してほしい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.