「BRAVE HEARTS 海猿」60点(100点満点中)
2012年7月13日(金)公開 全国東宝系 2012年/日本/カラー/116分/配給:東宝
監督:羽住英一郎 原作:佐藤秀峰 脚本:福田靖 音楽:佐藤直紀 キャスト:伊藤英明 加藤あい 佐藤隆太 仲里依紗 三浦翔平 伊原剛志 時任三郎

アンハッピーフライト

新鮮味ある題材とスペクタクル、役者たちの本格的な役作りで日本映画離れしたブロックバスターとしてスタートした海猿シリーズ。だが、ここへきていよいよ終焉を迎えようとしている。前作「THE LAST MESSAGE 海猿」(10年)の際に打ち出した伝家の宝刀、終わる終わる詐欺、とういわけではもちろんない。それとは別に、単にシリーズの賞味期限が切れつつあるということだ。

海保救助部隊の最高峰、特殊救難隊の仙崎(伊藤英明)は、相棒の吉岡(佐藤隆太)の恋人(仲里依紗)が乗った旅客機のエンジントラブルの報を受ける。たとえ海上に不時着できたとしても浮かんでいられるのはわずか20分間。とても「海猿」だけで多数の乗員乗客すべてを救助はできない。仙崎と仲間たちの、史上最も困難な救助劇がいま、始まろうとしていた。

本作は、ローマ風呂映画の意外なまでの大ヒットを受けたあとでも、それを上回る興収(年間1位)を 期待される超話題作である。見せ場のスケール感はさらにアップ、伊藤英明の体づくりもシリーズ最高 で、あらゆる意味で最も盛り上がるべき最新作といえる。

実際、ファンの期待には十分応えられるレベル。熱血キャラと大げさすぎる演技やセリフ。不時着シーンなどに一部チープ感は残るものの迫力ある映像効果。邦画エンタテイメントとしてのスケール感がトップ級なのは間違いない。

予算など制作環境において、相当恵まれているであろうそんな海猿シリーズは、しかし進路を間違えた。回を重ねるにつれ、スペクタクル構成のアイデアの貧困、ワンパターンぶりが目立つようになり、4作目にして早くも限界アップアップ状態だ。

閉じ込められる→沈む→残った空気を吸ってる間に助けられる──といったパターンには飽き飽きだし、ほかに見せ方はないものかと思わされる。

体育会的なノリが好きな人にはこのワンパターンもいいのだろうが、個人的にはもう飽きた。自然災害や事故の際限ないインフレーションという、シリーズものとしては未来のない方向に進んでいるから、そろそろ本当の意味で終わるだろう。これ以上の災害と言ったら宇宙からトランスフォーマーか何かが襲ってくる意外にない。白川総裁も恐れるコントロール不能なインフレの世界である。

また今回は、東日本大震災の記憶が生々しく、それを思い出してしまうのも問題である。

制作陣は、救助隊を賛美するテーマならこういう時期でも免罪符になると心のどこかで思ってやいないか? だがニッポンの絆だとか、白々しい主張をされると逆に観客は白けるのみだ。いまどき絆なんて言葉は、放射能入りの瓦礫を燃やして遠隔地の産廃利権者を潤すために使われているのが現状で、うさんくさいことこの上ない。

救命業務を行う人々の偉業は言うまでもないが、そんなものはもう誰もが心で認識、感謝している事柄であり、映画化するにしても控えめに敬意を払う程度で十分ではないか。

だが本作はその点、完全にタガがはずれており、レスキュー隊員マンセーマンセーになってしまっている。海上保安庁のプロパガンダ色が余りにも強すぎるし、それはかえって反発を生むだけであり、海保のためにもならない。しかもおそらく、制作陣は彼らに頼まれてそれをやっているのではなく、すすんで勝手にその役をやっている。立派な巡視船やヘリコプターを借りられて嬉しい気持ちはわかるが、善意の旗振り役というのは痛々しいし、もうちょっと控えめにしてほしいところ。

結局、現状ではこのあたりが邦画ブロックバスターの限界なのか。洗練されたエンターテイメント方面に正常進化する道もあっただろうに、さびしい限りだ。少なくとも1作目が登場したときは、その可能性を感じてワクワクしたものだ。だが、ワンパターンの見せ場とイベントのインフレ現象が起きただけで、コンテンツとしての魅力を食い尽くした。

これが予想通りヒットすればあと一つ二つは作られるのだろうが、現状の問題点を作り手が認識しない限り、もう新たな発見は得られないのではないかと思っている。



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