「映画 ホタルノヒカリ」10点(100点満点中)
2012年6月9日(土)全国東宝系ロードショー 2012年/日本/カラー/115分/配給:東宝
監督:吉野 洋 原作:ひうらさとる 脚本:水橋文美江 キャスト:綾瀬はるか 藤木直人 手越祐也 板谷由夏 松雪泰子
ドラマ視聴者限定
「映画 ホタルノヒカリ」は、同じくローマを舞台にしたロマコメ(?)の古典的名作「ローマの休日」(53年、米)をモチーフとしている。ロケ撮影による、おなじみの観光地を総ざらいした見せ場の数々がうっとりする映像となって目を楽しませる。むろん、楽しんだのは撮影スタッフと出演者の目であって、我々観客はその様子を眺めるだけである。
蛍(綾瀬はるか)は、ようやくゴールインした高野部長(藤木直人)と新婚生活を始めている。ところが持ち前の面倒くさがりでいまだ新婚旅行にさえ出かけていない始末。それでも仕事にかこつけようやくイタリア・ローマへでかけた二人だが、そこで彼らはイタリア版・干物女というべき莉央(松雪泰子)と出会う。
絶景なロケ地で、やっていることはこれ以上ないほどのおバカコメディー。ぶちょお〜だのゴロゴロゴロだの、お茶の間で尻をかきながら見ている分には許せたギャグの数々も、大勢でかしこまって静かな劇場で見ていると、とても気恥ずかしくて笑えない。劇場ならではのそうした逆効果現象が極まった一品である。
私は決してテレビドラマの映画化を否定するものではないが、映画というのは安くはない料金を払い、初めてこのコンテンツを見に来る人もいるのであるから、一見さんでも楽しめる要素を残しておいて欲しいとの気持ちは常にある。
もしドラマ版を見ていなければ一切楽しめない映画があるとしたら、それは映画である必要はない。会員制の有料サイトででも流すか、PPVで放映するか、あるいはそもそもテレビのスペシャル版ですむことだ。
映画館という、いわば公開の土俵でハリウッド映画等々と勝負するのであれば、せめてそれなりの完成度でもって出してきてもらいたい。
その意味でこの作品をみると、まず大きな問題として、「干物女」なる言葉をはやらせたこのドラマの魅力が、本映画を見ても全く伝わってこない点がある。綾瀬はるかにとっては、自身の初単独主演ドラマであり、それなりに力を入れているはずだが、痛々しいハイテンションはやらされ感すら漂う。好感度ナンバーワン女優である彼女の魅力をもってしても、芝居じみたキャラクターの違和感はついぞぬぐい切れなかった。
マスコミ試写会にはもともとドラマ未見の「一見さん」が多いためか、上映中はただの一度たりとも、くすりとも笑い声は聞こえず。コメディーとしてこれはどうなのか。グレゴリー・ペックとオードリー・ヘプバーンがジェラードを持って降りてきたスペイン階段で、2人のアホがあんなことをしているが、果たしてだれが喜ぶのだろう。
「テルマエ・ロマエ」が興収50億円を突破し、東宝は笑いが止まらぬ勢いであるが、こと本作に関しては、同じローマづいた美しい観光ムービー映画とはいえ、ロケ出席者の福利厚生費で制作したのかと思うほどのていたらく。よほどのドラマファン以外には、見る理由が見当たらない。