『ファミリー・ツリー』45点(100点満点中)
The Descendants 2012年5月18日(金)TOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/115分/配給:20世紀フォックス映画
監督・脚本: アレクサンダー・ペイン 原作:カウイ・ハート・ヘミングス 出演: ジョージ・クルーニー シャイリーン・ウッドリー アマラ・ミラー

不況時代にはこういうものが受ける

最近アメリカでは、家族の絆を描いた映画が大人気である。ここまで国民にカネがなくなると、無条件で賛美できて誰でも簡単に手に入れることのできる、もしくはすでに持っている家族を賛美しておくのが一番無難。家がなくなっても金がなくなっても家族さえいれば幸せ。そうした主張は、貧乏人の不満をそらしたい金持ちにとっても、家族以外に何も持ち物がなくなってしまった貧乏人にとっても、どちらにとっても都合がいい。結果、そうしたテーマの企画ばかり、グリーンライトをともされる。マーケティングの鬼であるアメリカ映画業界を見ていれば、あの国の本質が透けて見える。そろそろ投資しているみなさんは要注意、である。

由緒ある原住民の末裔としてハワイで暮らすマット(ジョージ・クルーニー)は、こん睡状態で眠り続ける妻が浮気していたことを知りショックを受ける。さらに彼は、先祖から託された土地をどこに売るかという大問題も早急に解決しなくてはならなかった。

主人公が不幸な出来事に直面し、そこから立ち直るため、現代アメリカ人・不動のよりどころたる「家族の絆」に立ち返る物語。舞台がハワイの上流階級の話であるといった以外は取り立てて何の変哲もない話である。

人は行き詰まったとき、自分のルーツに助けを見いだす。それは洋の東西を問わないようだ。この映画の主人公も、人生の別れ道に直面した時、救いを求めるように自分のルーツ探しを始める。動機も、その行く末も全くの予想通りで何の意外性もない。こんな映画がアカデミー賞で話題に上るくらいなのだから、アメリカも末である。

ひとつユニークなのは、この映画の舞台はハワイだが、我々がツアーで行くような観光イメージではまったくない点。主人公は、サーフィンなんて15年もやっていないなどと語っているが、その言葉の通り地に足のついた本当のハワイの暮らしが描かれている。

好感度の高い役者として人気がある主演ジョージ・クルーニー演じるマットをはじめ、キャラクターはそこそこ立っている。ちょっと空気を読めないが心やさしい娘の彼氏など、脇役に魅力的な人物を配置してあることで、退屈せずに見ることができる。

人間を描く名手アレクサンダー・ペイン監督は、こうしたすべてのキャラクターの、この上なくみっともない部分を繰り返し描くことで、観客の共感を集めようとする。妻もカッコ悪ければ旦那も格好悪い、娘も彼氏もみんなダメ。そんな愛すべき不完全人間たちの、完全なる絆が描かれる。

この物語に共感するアメリカ人が多い──その事実から、みなさんは何を感じ取るだろうか。



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