『ロボット』85点(100点満点中)
Endhiran 2012年5月12日(土)より渋谷TOEIほか全国公開 2010/インド/カラー/16:9ワイドスクリーン/ドルビーデジタル 提供:メダリオンメディア 配給:アンプラグド
監督:シャンカールアニマトロニクス&特殊効果:スタン・ウィンストン・スタジオ スタント:ユエン・ウーピン 出演:ラジニカーント アイシュワリヤー・ラーイ
面白くて斬新でゴージャス
富士そばの一部店舗にカレーかつ丼というメニューがある。おそらくカレーライスとかつ丼の両方を食べたい人が考案したメニューであろう。だがそのコンビネーションは、予想通りいや予想に反して大した相乗効果をもたらさず、どうみてもかつ丼にカレーをかけた以上の料理にはなれなかった。
これは欲張りな消費者の要求が必ずしもいい結果を招くわけではない一例だが、インド映画『ロボット』は、笑いやスリラー、アクション、ミュージカルなどを、相乗効果を無視してひたすら盛り込んだ映画版カレーかつ丼。しかも、奇跡的に破綻なくまとまった他に類を見ないエンターテイメント作品に仕上がっており、富士そばメニュー考案者も激しく嫉妬間違いなしの逸品である。
バシー博士(ラジニカーント)は10年来の夢である人間型ロボット(ラジニカーント・二役)の開発に成功した。軍用にも耐えるほどの驚異的な能力と戦闘力をもつロボットだったが、感情を理解させるようにしてから予期せぬトラブルが発生する。
本作は、シャンカール監督が劇中の新型ロボット同様10年間の構想で作り上げた作品。インド映画史上最大の予算をつぎ込んだ超大作で、同国の映画としてはおそらく史上最高の興行収入を記録した。おそらくと書いたのは、インド映画は必ずしも厳密に集計されていないため、である。
そんなテキトーな国らしく、CGを駆使したカーチェイス&クラッシュがあったかと思えばラブロマンスもあり、そこに唐突かつ絢爛なダンスシーンが何の脈拍もなくジャンルの壁を超えて繋がっている。このトリップ感だけは他国の映画では味わえない。
この映画をつくるにあたり、監督はハリウッドのVFXスタッフや香港映画の技術指導者等、各国の一流の人材を呼び寄せた。そうした国の作品をほうふつとさせる見せ場が多いのはそれが理由だが、それでも全体をみればこれはインド映画としか言いようがない。これが逆に、各国の映画人がアメリカに行けば、出来上がったものはどれも「ハリウッド映画」的になってしまうところ。その意味では、世界一の技術を持つアメリカの映画人が各国映画に「出向」するのは、世界の映画文化の進歩のためには良いことなのかもしれない。
主演はラジニカーント。「ムトゥ踊るマハラジャ」(1995)で、日本にインド映画ブームを巻き起こしたあのスーパースターだ。ブームと言ってもほとんどこれ1本という声もあるが、いずれにしてもあれからあれから数十年。62歳ながらダンスシーンは自分で演じており、さすがに動きには衰えが見られるものの、そのカリスマチックな雰囲気は全くもって健在である。
この映画の最大の見どころはラスト40分間のアクションで、これは本当に度肝を抜かれる。
ロボットが周りを破壊しまくるありがちなアクションなのだが、こんな馬鹿げた見せ方を考え付いたのはこの映画が初めてだろう。常軌を逸したその数々は直接見てもらう以外にないのだが、我々プロフェッショナルが、開いた口がふさがらない体験をするというのは大変なことである。
バカバカしいだけではなく意外と深い部分もあって、ラストにロボットが語るセリフなどは大変考えさせられる。
感情を持ったことで、皆から疎まれるロボット。では、いったい彼はどうすればよかったのか。笑って映画を楽しんだ後、観客は自分の頭で考えることになる。
わが国の場合は、財務省が製造したロボットが総理大臣という重要な職に就いているが、彼にも自分自身でしっかり考えて働いてほしい。