『恋と愛の測り方』60点(100点満点中)
Last Night 2012年5月12日(土)より新宿ピカデリー他にて公開 2010年/アメリカ・フランス/カラー/92分/配給:アルシネテラン
監督:マッシー・タジェディン 脚本:マッシー・タジェディン 音楽:クリント・マンセル キャスト:キーラ・ナイトレイ サム・ワーシントン エバ・メンデス ギョーム・カネ

フランス&アメリカ版・3年目の浮気

この映画は、配偶者が留守にするある夜を舞台に一晩限りの男女関係を描いたスリリングなドラマである。女性監督らしいというべきか、痛々しいリアルさが散見される、そのあたりが魅力といえる。

結婚3年目。ジョアンナ(キーラ・ナイトレイ)は夫マイケル(サム・ワーシントン)が美人同僚ローラ(エヴァ・メンデス)にただならぬ好意を抱いていることを知り焦りを隠せない。しかも今夜、彼女と泊りがけ出張にいくというのだ。疑念が晴れるまま夫は出発してしまったが、そんなとき元彼アレックス(ギョーム・カネ)と偶然再会、ジョアンナは食事に誘われる。

どんなにラブラブなカップルでも、おそらく300回ほど愛しあえば、いい加減相手への執着はなくなり、落ち着くべきところに落ち着くものだが、少なくともその間は、相手が浮気するのではないかなどとハラハラ楽しい時間を過ごすことができる。

お互いの浮気を心配しあうこの映画のストーリーは、男女のそのほんのわずかな幸せな期間を切り取った映画ということができる。どうせすぐに不良債権と化してどなたかのお引き取りを願う事になるのが通例だとしても、こうしたファンタジーのような時期は存在する(した)。

さて、奥さんのほうは旦那の出張中、元彼と出会ってしまうとストーリーには書いてあるが、2年前にちょっとだけつき合ったそうだから、彼氏というよりは浮気相手のようなものだ。セフレとまではいわないが、これで彼氏というのはちょっと違う気がする。どうせヤってたんだろうと思うわけだが、それならもし今回旦那が浮気したとしてもバランスが取れるなぁなどと考えつつ映画を眺めてゆく。

そうしてみると、この映画は娯楽映画のヒナ型では全く作られていないと気付く。えらく淡々としているし、たった一晩を延々と見せるわけだからチンタラとしていてとにかく長い。妻と夫の行動を交互に編集しているだけで見せ方に工夫がない。

映画館に行けばサム・ワーシントンにあたるとの格言があるとおり、今や毎週のように彼の顔を見ている我々映画評論家だが、今回は彼の雰囲気に合った誠実な夫の役で違和感なし。奥さん役キーラ・ナイトレイはそれ以上に浮気などしなそうで、フランスのエロい元カレに心が揺らぐ役柄としてはいまいち説得力に欠ける気も。ラブコメ並の安っぽい脚本のくせに、根源的なエロさや生々しさに欠けるため、映画そのものがお高く留まった印象となっている。

そのくせ夫を誘惑する美人同僚の見境ないフェロモン行動はおバカ度が高く、下着姿でプールに入ったりなど、警備員が即時すっ飛んできそうな展開まで用意される。これでロマンチックを感じてね、ということだろうが、男が見れば笑いしか出ない。リアリティー重視のドラマ的演出をしながら、こういうファンタジーをやるものだから、よくわからないバランスである。

結局のところ、細かいことは気にするな式の恋愛シミュレーションであり、カップルの暇つぶし程度とみたほうがよろしい。

セクシー美女に攻め込まれる夫側の展開は少々非現実的な気がするが、要するに男にとってではなく、夫の浮気を心配する妻にとってリアルなストーリーを描いている。実際私の綿密なマーケティング調査によると、このようなケースで元カレに心が揺らぐというのは女性にはよくあることらしいので、女性客は目を輝かせることになるだろう。

まとめとして、カップル映画としては60点といったところ。ただし、まだ相手に嫉妬心が残っている幸せなカップル限定、である。



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