「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」70点(100点満点中)
The Help 2012年3月31日(土)(TOHOシネマズシャンテ他、全国順次ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/2時間26分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
監督・脚本:テイト・テイラー 原作:キャスリン・ストケット 音楽:トーマス・ニューマン 出演:エマ・ストーン ジェシカ・チャステイン ビオラ・デイビス ブライス・ダラス・ハワード オクタビア・スペンサー
黒人差別の特異性
日本もアメリカも家政婦がブームなのか、「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」の原作本はアメリカで大ヒットとなった。その映画化である本作は、いまなぜ黒人差別の映画なのかとの疑問は残るもののさすがに賞レースを賑わしただけあって出来は安定していた。
60年代のアメリカ。南部の上流階級の娘ながら黒人メイドに理解と共感を示すスキーター(エマ・ストーン)は、虐げられる彼女たちの生の声をノンフィクションとして出版するため、知り合いのメイド(ヴィオラ・デイヴィス)に相談する。だが、想像以上に彼女たちの心の壁は厚いのだった。
アカデミー賞がいいかげんなのは、誰が見てもヴィオラ・デイヴィスの演技こそが魂を振るわせる見事なものだとわかるのに、別の家政婦役オクタヴィア・スペンサーをノミネートしていることでわかる。むろん彼女も悪くはないが、本作のヴィオラ・デイヴィスの横にいたら明らかに劣る。
彼女がずっと育てていた白人の子供と別れるとき、涙ながらにあるセリフを語る場面は、この映画屈指の名場面である。そこで語るセリフは、虐げられてきた黒人メイドが語るからこそ人々の胸を打つ。物語の重要なテーマでもあり、だからこそ心に響く。
この映画は白人による黒人差別の映画だから、基本的には両者が対立する構図となっている。しかし、映画館にやってくるお客さんから白人を排除してるわけではないから、そうした人々の感情移入先として、上流階級からつまはじきにされる白人女性も1人でてくる。
こうしたキャラクター配置にはしたたかさを感じさせるが、そのおかげで本作は、黒人以外の観客の共感も得ている。苦しい状況を感じさせないほどに前向きで、ユーモアを忘れず、仲間同士で助け合う黒人メイドたちの姿には、誰もが勇気付けられるだろう。
それにしてもアメリカ、というかその白人支配階級たちはおかしな連中である。
黒人を差別しているから、接触したくないから、自分たちのメイドに専用のトイレまで作って隔離しようとする。だがそのメイドにご飯を作ってもらっているという矛盾。これがほんのつい最近、ケネディ大統領の時代にも実際に起きていた事だというのだから、あの国は狂っている。とてもではないが、北の将軍様を笑えない。
結局アメリカの人種差別ものというのは普遍性に欠ける気がして、現代日本人にとってはこうした第三者的な見方になってしまう。日本にも様々な差別はあるものの、アメリカで起きた人種差別とは、明らかに種類が異なるものに思える。単なるいじめとか、村八分といったものとは異質な、彼ら独特の差別意識を理解するのはいまだ難しい。むしろこの映画が、暗黙の前提として描写を省略したであろう部分をこそ、描いてほしいと思ってしまうのである。