『friends after 3.11【劇場版】』50点(100点満点中)
2012年3月10日よりオーディトリウム渋谷 他全国順次公開 2011年日本/135分/ロックウェルアイズ
監督・製作:岩井俊二 出演:松田美由紀 岩井俊二 小出裕章 上杉隆 後藤政志 飯田哲也 小林武史 山本太郎 岩上安身 武田邦彦 藤波心

反原発派のオールスタームービー

まもなく東日本大震災から1年ということで、関連作品の公開が相次いでいる。その中でも本作は、昨年末にCS放送・朝日ニュースターで放映された番組に新規映像を加えたもの。岩井俊二監督みずから製作・監督した、原発問題に焦点を当てたドキュメンタリーとなっている。

中身は岩井監督が「震災後に仲良くなった」と語る、おもに反原発思想の活動家や文化人に事故後の日本についてインタビューしたもの。被災地にも乗り込んでいるが、良い機材と安定したカメラワークで、これまでの岩井監督作品同様、穏やかなタッチの映像となっていることが特徴的である。この点、先日公開された『311』(森達也監督)が伝える生々しさとは対照的である。

この安定した画と、反原発派の人たちの迷いのない主張によって、震災後の混乱の中撮影されたとは思えない程の完成度の高さを実現している。

その反原発派知識人については、ほとんどオールスター総出演といった感じだが、中でも田中優の、異様なまでに簡潔で的確、論理的な熱弁シーンは圧巻。ここを岩井監督は、細かくカットを切り換えながら、迫力たっぷりに演出する。それはほとんどエンターテイメントの域に達している。

このほかにも、六ケ所村の再処理施設についてのドキュメンタリーなどで知られる映画監督・鎌仲ひとみや、いまや説明無用な山本太郎など、多くの人物が登場する。まず思うのは、あちこちで見かける推進派の人たちに比べてたいへん弁が立つということである。

もっとも原発推進派の学者やコメンテーターの主張は、もともと説得力に乏しいポジショントークに過ぎない上に、今となっては目の前で原発が燃えているのだから、何を言ってもブラックジョークにしかならない。あげく最近では放射能は体に良かったんだなどと、セシウムサプリメントでも売り出しかねない暴走キャラと化している。遠慮はいらないからどうぞ好きなだけ摂取したら良い。自分お一人で。

ところでタイトルから見ると、ここに出てくる反原発の人たちは、監督にとって「友達」に近い人々なのだろう。じっさい多くの人が、仲間うちならではの親密さ、リラックスしたムードでしゃべっているように見える。そういう雰囲気でないと出て来ない言葉というものがあるから、それはそれで貴重なものであろう。

さらに音声も映像も明瞭で、どこか温かみを感じさせる。たとえ被災地を写している映像であろうとも、まるで映画のワンシーンのような、作られたセットのような穏やかさがある。これも演出の一つなのだろうが、私同様、少々ひっかかる人も多いのではないか。

その違和感の原因を考えてみると、どうもこの、反原発やら環境保護やら平和主義を訴える人たちが好みがちな、お友達・お仲間意識のようなものが、ノーテンキに感じられてならないという、そこに行きつく。

研究者や元技術者なども含まれているから全員という意味ではないが、それを統括する監督、すなわちこの映画自体がその空気でまとめられているのは確かだ。これは好みの問題なのでマイナスというわけはないが、あの原発事故とそれにかかわる不誠実な連中に対する、怒りのエネルギーがいまいち伝わって来ないのは個人的にはもどかしいところ。こんな映画を作っているくらいだから、監督らにそれがないわけはないのだろうが……。

一方、先日公開された『311』(森達也監督)は、これ以上ないほど不器用で、あるいみ無様とさえいえる出来栄えだったが、少なくとも激しい感情がこもっていた。本作はきれいに整いすぎている分、それが感じにくい。

この仲よしムードが地球市民的というか、真剣みが薄れる感じがして一般的にはついて行けないところだ。本人たちにはそんなつもりはないのだろうが、これだけの証言を集めながら一般への訴求力を落としているのは、非常にもったいないと思う。



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