「ピラミッド5000年の嘘」65点(100点満点中)
THE REVELATION OF THE PYRAMIDS 2012年2月18日(土)、新宿バルト9、丸の内TOEI他全国ロードショー 2011年/フランス/カラー/100分/配給:スターサンズ
監督:パトリス・プーヤール 原作:ジャック・グリモー 脚本:ジャック・グリモー、パトリス・プーヤール、オリヴィエ・クラスカー・ローゼン 出演:ジャン・ルクラン(エジプト考古学者) ギーメット・ アンドル(ルーヴル美術館 古代エジプト部門主任キュレーター) ジャン=ピエール・アダム(建築家、エジプト学者)ほか

大風呂敷が気持ち良い

「私のどこが好き?」ときかれ、前から大好きだったきれいな目が一番好きだよと答えたら、じつはプチ整形済み箇所だった──。真実は人を幸せにするとは限らない。知らない方が幸せということは世の中多々ある。

しかし、それでも知りたいのが真実である。そんな真の探求者にとって、ピラミッドほど魅力的な存在はない。特にエジプトのギザの大ピラミッドは、一応の定説はあれどその目的も建造方法も全くの謎。厳然と目の前にあるにもかかわらず、何もわかっていない。異様に整った顔を持つ、黒髪ロングの女のコの過去くらい、何もわからないのである。

「ピラミッド 5000年の嘘」は、そんな謎に魅入られたパトリス・プーヤール監督が10年間の歳月をかけ、あらゆる学説を、徹底的に検証したドキュメンタリーの決定版である。

映画のオープニングでは、いきなり「根底から覆される人類史」などとたからかに宣言。続いて「史上最もセンセーショナルな謎解き」と自画自賛。「歴史が塗り替えられる衝撃に、あなたは耐えられるか?」 と、観客をあおりまくる。

およそ宣伝コピーから始まる映画なんてものは前代未聞である。音楽も無駄にドラマチックで、どうやらこの映画が学術的ではなく、サイエンス・エンターティナーな仕上げになっていることの、これは宣言と取ることができるだろう。学研のオカルト本ファンにしてみれば、じつに胸踊るオープニングである。

その後はピラミッドにまつわる謎、雑学、そういったものを一通り素早くおさらいする。組み立ての高い精度であるとか、一つ一つの石の異常なまでの重さとか、うすうす知ってはいたが改めて聞くと、とても古代の人間の力だけでは建てられない、史上最大のオーパーツであることがよくわかる。

中でも最も重要な謎は、この巨大なピラミッドがわずか20年間で建てられたという異様に短い工事期間の問題である。

これについてこの映画は、20年間という数字にこだわることに真っ先に疑問を投げかける。そもそもエジプト学では、このピラミッドをクフ王の墓と決めつけているので、クフ王の治世期間20年間で完成した説をとらざるを得ない。だが、そこにこだわりさえしなければ……という導入部はうまい。専門家でなくとも非常にわかりやすいアプローチといえる。

宗教的、政治的な制約を受けやすいエジプト学の定説にのっけから背を向けることで、自由な学説を展開する。これは、オカルト本を含むピラミッド研究の基本中の基本であろう。この映画も、そうしたお約束を踏襲して話を進めてゆく。

考古学や建築学など様々な分野の専門家のインタビューを中心に構成されるが、編集が一問一答形式で行われているためわかりやすい。例えば、類似の不思議遺跡の例として挙げられるナスカの地上絵について語る場面。航空写真でしか確認できない20キロメートルも続く直線について聞かれたある専門家が「儀式の時、練り歩く道だった」と答えると、直後にナレーションで「説得力のない説だが、他に有力な説もない」と重ねる。これには爆笑した。これではわざわざ答えた専門家の立場がない。

このように、権威ある専門家のインタビューを取っていながら、それらをおちょくり笑いをとるような勇気がこの作品にはある。おそらくパトリス・プーヤール監督は、ラストで明らかにする自説に絶対的な自信を持っているからこそこうした態度が取れるのだろう。その傲慢さと強気さが、この映画を面白くしている。

もっとも、トンデモ説のみならず、貴重な映像らしきものも提示される。中国にあるピラミッドを世界でただ1人、政府の許可を得て取材した男のインタビューもそのひとつ。もっとも世界に1人というのは本人の自称なのでどこまで信用できるかは定かではない。だがそんなことを気にする人は、この映画の鑑賞者としては不向きである。

大ピラミッド自身についての雑学も、初めて知る事実がたくさん詰め込まれている。春分・秋分の数秒間だけ側面に縦筋が見えるなどという事実を知っている日本人は、ほとんどいないだろう。わざわざその数秒間に縦スジが見えるように精密な設計がなされているそうだ。古代エジプト人は、どれだけ割れ目が好きなんだよと驚かされる瞬間である。

こうした数々のトリビアは、監督らの取材力、そして深い研究の成果である。

ただし、新発見にこだわりすぎて、ピラミッドのあちこちのサイズを足したり引いたりして比べたりする数学的な試行錯誤は退屈だ。こんなところに黄金比が!とか、円周率が隠されていた!などといわれても、文系の身としてはなぜわざわざそんな面倒な隠し方ををするのかがさっぱりわからない。

例えば、ピラミッドを上空から見た内接円と外接円の差が、光の速度と同じであることを発見し、だから古代エジプト人は光の速度を知っていたなどとこの映画は主張するが、そんなに光の速度を知ってたことを自慢したいならそのへんの壁に書いておけばいいだけの話ではないのか。なぜわざわざ内接円だの外接円に隠しているのか、まどろっこしいことこの上ない。

無論、文字の寿命は短いからそんなことをしてもほとんど意味はないわけだが、そんな皮肉も言いたくなるほどに後半のすっ飛びぶりは豪快。もはやついて行ける人は、月刊ムーの読者だけだ。

それにしてもこの映画で唯一評価ができるのは、誰もが解けなかったピラミッドの謎について、一応の結論を自信たっぷりに最後に提示する点である。まともな学者なら、そんなことを断言する勇気は絶対にない。だがこの映画の監督は、この真実を知ればあなたの地球の見方は永遠に変わる、などと自信満々である。

その結論は、大口を叩くだけあって大変スケールの大きなもので、どう考えても証明不可能な雄大なもの。

結局のところこの映画は、学術的にどうこういうよりも、膨大な雑学に身をゆだねてロマンの旅にひたるのがいい。演出も派手で面白いし、映像もCGを多用しバラエティーに富んでいる。学者先生をおちょくるユーモアもいい。

オカルトやオーパーツ、そういったものが好きな人にはぴったりなドキュメンタリーである。ただ、そういう人たちは自分の「師匠」と違う説を見て楽しむことができるかどうか。とりあえずは、間違っても考古学を真剣にやっている人が、何かの新たな説を期待して見に行くよう映画ではないとアドバイスしておく。



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