「逆転裁判」60点(100点満点中)
2012年2月11日公開 全国東宝系 2012年/日本/カラー/??分/配給:東宝
監督:三池崇史 脚本:飯田 武、大口幸子 出演:成宮寛貴 斎藤工 桐谷美玲 中尾明慶 大東俊介 柄本 明
法廷バトルに特化した映画
映画「逆転裁判」は、法廷映画を作るとき映画監督が悩む様々な問題点を、斬新な方法で解決した作品である。
日本によく似た世界。正義感の強い新米弁護士の成歩堂(成宮寛貴)は、ライバル検事の御剣(斎藤工)が起訴される事態を受け、果敢に弁護を引き受ける。だが今回の相手は無敗の最強ベテラン検事・狩魔(石橋凌)。証拠集めの期限はわずか3日間。はたして成歩堂はこの圧倒的不利な対決を制し、依頼人を救うことができるのだろうか。
裁判映画を作るとき、真っ先に起こる問題点はリアリティをどこまで追い求めるか、であろう。というのも、実際の裁判とはあまり面白いものではないからである。裁判場面を本当にリアルに描けばたぶんその映画は退屈にすぎ、その逆をやればフィクションすぎると文句を言われる。さじ加減が難しい。
かくいう私も高校生時代、「異議あり!」を連発する格好良い欧米の裁判映画を見て、本物はどんなものかと実際に裁判所へ傍聴に通ったことがあるが、そこで繰り広げられる法廷劇は当然ながら映画とはまったく違った。退屈な事実の検証ばかりが続き、いつまでたっても弁護士が異議あり!を叫んで、衝撃の新事実で相手をやり込めるクライマックスは訪れない。
例外はあろうが、結局のところ法律の専門知識のない第三者が見て、それほど興味がわくものではないわけだ。映画監督はまず、この難関を乗り越え、リアリティとのバランスを考えながらも裁判をおもしろおかしく描かなくてはいけない。
さらに重大事件の場合、日本の裁判は極めて長い。映画で5年も10年も裁判が続いていたら、間違いなくだれる。この点も監督の頭を悩ませる部分である。
しかし、映画「逆転裁判」は、架空世界の物語とすることで、こうしたハードルを易々と超えてきた。もともと携帯ゲームが原作で、データ容量の問題等もあったのだろう、その映画化である本作もじつに簡略化・エンタメ化された「裁判」が特徴である。
この架空世界では、何とわずか3日間で結審し、その場で判決が言い渡される。どのような凶悪犯を裁く場合でも、例外なく3日間で裁判が終わる。麻原彰晃もびっくり、平田信も逃げてる暇なしの、容赦ない厳しいルールである。
しかしおかげで、せせこましい証人捜しやら、証拠集めなどはばっさりとカット。とにかく3日間でできることしかできないから、何もかもがスピーディー。事件説明が複雑になることもないから、気軽に楽しく見ることができる。こうした裁判劇に慣れない人にもわかりやすい。
これはもともと携帯ゲーム(ゲームボーイアドバンス)でのプレイ状況に合わせた設定なのだろうが、映画化においても思わぬ効果を発揮した。この、一見リアリティーのない、弁護士と検事のバトルに特化した裁判がなかなか楽しいのである。
三池崇史監督の作風にもぴったりで、おバカだが妙に勢いがあり、くだらないと思いつつもつい見入ってしまう。そんな作品に仕上がっている。
しかも、この映画はそのようなおバカ感がありながらも、なかなか複雑で論理的なクライマックスが用意されている。証言台に立つ者が本気で思い込んでいる真実、それは本当に真実なのか? 皆が正直に話していれば真実は明らかになるのか? そんな高度なミスリード、ミスディレクションを味わうことができる。おバカ映画にそんなものが必要なのかはともかくとして、じつによくできたオチである。
携帯ゲームの粗っぽいドット絵のごときキャラクターの見た目を忠実に再現した髪形等、全く必要のない役作りに異様な力をかけるアホさ。なぜそんなところにこだわってるんだキミは、と思わず役者たちに突っ込みたくなるが、このあたりは三池監督の確信犯であろう。この映画に出てくる登場人物は、そんなわけで全員がズラ。ズラ大会かと思うぐらいの勢いである。
本格的な裁判映画を求める方にはビミョーだが、それに匹敵する法廷でのやりとり、バトルの面白さは楽しめる。最近の三池監督作品らしく、笑いと見応え、のバランスも保たれている。過剰な期待は禁物だが、思ったより面白かったね、となる作品ではないかと思う。