『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』70点(100点満点中)
Mission: Impossible - Ghost Protocol 2011年12月16日(金) TOHOシネマズ日劇ほか全国超拡大公開 2011年/アメリカ/カラー/132分/配給:パラマウント
監督:ブラッド・バード 脚本:ジョシュ・アッペルバウム、アンドレ・ネメック 製作:J.J.エイブラムス&ブライアン・バーク、トム・クルーズ 出演:トム・クルーズ ジェレミー・レナー サイモン・ペグ ポーラ・パットン
≪豪華特盛エンターテイメント≫
「セックス・アンド・ザ・シティ」という作品がある。50も過ぎようかというお姉さんが、惚れたはれたを繰り返すアメリカの人気ドラマだが、ゴージャスな洋服やライフスタイルが目の保養ということで若い女性にも人気がある。トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』は、いわば男性向けのSATCのごときエンターテイメントである。
アメリカの極秘諜報機関IMFのエージェント、イーサン・ハントと彼のチームは、クレムリンの爆破テロの容疑をかけられる。それを受け、米国大統領はIMFごと解散を命じ、イーサンたちは政府の後ろ盾を完全に失った。追われる身となりながら、単身真犯人を追い続けるイーサンは、黒幕たちがドバイに集まるとの情報を入手する。
主演のみならず企画から製作すべてに関わったトム・クルーズ。彼にとって最も大切なシリーズの最新作というべき本作は、さすがにあらゆる面がゴージャスである。アクションシーンにもふんだんに予算をつぎ込んでいるから、出てくるのは高級車ばかり。身に着ける服も高級なスーツ。それで砂漠の砂だらけになってアクションを繰り広げるのだから贅沢極まりない。
中でも本作最大の見どころは、世界最大のビル、ブルジュハリファの壁面を自ら走り回る危険なスタントシーン。CGを使ったクレムリン爆破等、大スペクタクルもあるにはあるが、やはりメインとなる部分ではスタントマンすら使わないガチンコ根性が、ハリウッド最高峰に立つもの一流のこだわりである。
もちろん女性(と一部男性)ファン大喜びの、上半身裸の場面もちゃんと用意されている。こちらも多分、CGではないだろう。このあたりが、男版セックス・アンド・ザ・シティといいたくなる所以である。
なにしろトム・クルーズといえばファンサービスについては全米一といわれ、サインしてと一言いえば、頼んでもいない写真撮影までオマケしてくれるほどの気さくな男。いくつになってもこうしたシーンをきっちり入れてくるあたり、まさに本物のプロ、これぞハリウッドスターである。
ただし、ゴージャス大作ならではの悩みもある。たとえば、量をケチったと思われたくないのであろう、上映時間はすこぶる長く、見せ場もその分多いとはいえ、かなり間延びがする。もう少し登場人物間のユーモラスなやりとりを増やすなど、緩急つけておけばそういうことにもならなかっただろう。もう一人のヒーロー的存在を投入する試みがなされているが、ミッション・インポッシブルにトム・クルーズ以外のヒーローは不要である。太陽のもとに懐中電灯を配置しても効果はない。
相棒となるメンバーたちは本作から大幅に変更。主人公以外を総取り替えしてリフレッシュをはかるのだから、なかなか斬新なシリーズ延命策である。これぞまさに、このシリーズがトム様映画であるということの証明といえる。
真新しい話題の建造物を作品のシンボルとして使うセンスはいかにも最新のハリウッド映画だが、クレムリンが爆発したり、そこから流出した核テロがストーリーの主軸となっているあたりは古風なスパイ映画風で興味深い。
いずれにせよこの映画は、高級食材を使ったラーメン二郎のようなもの。スペクタクルの質量が多すぎて、けっして完成度が高いとは言えない部分もあるが、2012年のお正月映画らしい華やかな超大作としては唯一無二。そういうものが見たい人は、どうしてもこれを選ばざるをえない。もっとも、そうしたニーズには十分こたえる程度の出来にはなっているので心配はない。