『ヒミズ』25点(100点満点中)
2012年1月14日、シネクイント他 全国順次ロードショー 2011年/日本/カラー/アメリカンビスタ/ドルビーSR/129分 配給:ギャガ
監督・脚本:園子温 原作:古谷実 出演:染谷将太 二階堂ふみ 渡辺哲 吹越満 神楽坂恵

≪0か100か≫

とんがった表現を次々と発表し、業界関係者の評価がすこぶる高い園子温監督の最新作『ヒミズ』は、良くも悪くも評価が真っ二つに分かれるであろう問題作である。

15歳の住田祐一(染谷将太)は、借金まみれで家にも戻らぬ父親(光石研)、男に入れ込んで育児放棄している母親(渡辺真起子)に代わり、家業の貸しボート屋を一人で切り盛りしている。そんな彼は学校では浮いた存在だったが、クラスメートの茶沢景子(二階堂ふみ)だけはなぜか彼に盲目的に惹かれ、邪魔者扱いされても猛烈なアタックを繰り返すのだった。

監督は東日本大震災の発生に衝撃を受け原作の設定を大幅変更。震災直後という形で脚本を書きなおした。その意志は結末部分にもっとも色濃く反映されているが、さらに話題なのはこの映画が、おそらく初めて被災地で撮影され、公開される劇映画という点だろう。

私たちは、津波の映像は3月以来いやというほどニュースで見せられてきた。だが映画館のスクリーンに爆撃直後のような街並みが大写しになり、あまつさえそこで誰かがお芝居をしているというのはまったく別次元の衝撃がある。

むろん、映画監督であればあの場所に立ち入り、何がしかを記録しておきたいと思うのは当然。実際、現地入りした人がいるという話は以前から聞いていた。

ただしその映像の取り扱いは、慎重に慎重を期すべきなのは当然。瓦礫の山と化していてもそこは私有地であり、かつては無数の人々の生活があり、今は死の跡となった特別な場所だ。勝手に撮影することはおろか、それを有償の映画で公開するというのは、人によっては受け入れがたいことだろう。

じっさい、あれから1年もたたぬこんな早くに商業映画、それも劇映画で使うというならば、よほどの必然性があってしかるべきで、それが『ヒミズ』にあるかないかが、この映画の評価の分かれ道といっても過言ではあるまい。

結論から言うと、あくまで個人的には、この映画の被災地の映像は到底受け入れられないものであった。それらの景色が発する断固たる現実の重みが、その手前で繰り広げられる芝居じみた(実際芝居なのだが)やりとりのあまりの軽薄さを断固拒否しているように見えた。

厳しい言い方になるのは承知だが、この程度の事を語るためにわざわざ被災地を持ち出す必要があったのか、観客も批評家も議論する必要があるだろう。むろん、言うまでもなく作り手たちはこれ以上ない真剣な態度で撮影に挑んだのだろうとは思うものの、結局は出来栄え次第であの場所を利用したかのように誤解されてしまうものだ。また、肩に力が入りすぎたのか、このシーンでは演技者たちの大げさなパフォーマンスも不快感を感じさせる。結果的に下手に震災をからめたのは、本作にとって大失敗だったと私は考える。

これみよがしに被災者たちと登場人物を重ねるようなエンディングもしかり。確かに日常を失った、その日常を取り戻すのを切望するという意味では両者は似ているようにも思えるが、ふつうに考えてこの子供たちと被災者の苦悩をリンクさせるのはいくらなんでも無茶に過ぎる。それは作り手の身勝手というものだ。

ヴェネチア映画祭で新人賞を受賞した主演の二人の演技も、頑張ってはいるが単調な印象を受ける。とくに二階堂ふみの押しつけがましい好意の表現には、それこそが他人を不幸にするおせっかいの象徴で、観客の共感をこのキャラクターから排除するためのものだろうと思っていただけに、最後は拍子抜けした。

もっとも、園子温監督作品を悪く言う人は私の周りにもそうそうおらず、熱烈なファンにとってはここで批判したあれこれも最初から受け入れる準備が整っているだろう。そうした場合は、この記事とは真逆の感想になる事は容易に想像できる。だからこそ、評価が分かれる問題作、というわけだ。



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