『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』60点(100点満点中)
THE DEVIL'S DOUBLE 2011年ベルギー/109分/R18+/ギャガ
監督: リー・タマホリ 原作: ラティフ・ヤヒア 出演:ドミニク・クーパー リュディヴィーヌ・サニエ ラード・ラウィ フィリップ・クァスト
≪キャラクターの魅力は描けているが≫
自分の彼女はモデルの○○に似てる、などとのろける男性は意外に多い。自己暗示をかけることで恋の喜びを脳内増殖しようという高等テクニックなのかもしれないが、第三者から見るとギャグでも言ってるのかと誤認することも多い。
人間の目は主観次第でどうにでもごまかせる一例だが、ごくまれに誰が見てもそっくりな人間というのがいるものだ。『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』は、悲しいかな稀代の独裁者に見そめられてしまった元影武者の回想記である。
サダム・フセインの長男ウダイ(ドミニク・クーパー)は、圧倒的な権力をバックにやりたい放題のドラ息子として知られていた。町で美人学生を見つければ拉致して暴行、そのまま通りに捨てていくなどサディスティックな異常性質で恐れられる彼は、あるとき同級生のラティフ(ドミニク・クーパー:二役)を呼び出す。背格好が似ているラティフが予想以上に自分に似た風貌に成長しているのを見て上機嫌なウダイは、「微調整」を施した末に自分の影武者にならないかと持ちかける。
カノジョが長澤まさみに似ているというなら大歓迎だが、自分の顔がサダムの息子にそっくりというのは笑えない。昔知り合いに、今ネットで大人気の金正男にそっくりな男がいて、これがまたコピーかと思うほど似ていたために、職場の人らにこっぴどくからかわれていた。……が、そんなものならまだシャレですむが、この映画のラティフの場合はそうはいかない。
影武者にならないか? などとなんだか高収入のおいしい仕事でももちかけるかのように言うものの、実際は断る選択肢などない。ラティフはイラクでは中流以上の裕福な家庭の息子でウダイとは旧友でもあるが、サダムの息子としての彼の前では無力である。そこから、想像を絶する強制就職、はじめての影武者たいけんが事細かに描写されるパートへと移る。
世界史上に残る独裁者の息子の生活は、そりゃあらゆる意味で破天荒だ。ウダイは異常なほど絶倫で、女に目がないから周りにとっては悲劇である。ハンサムで人当たりは最高、笑顔もさわやかだが、ひとたび怒らせたらとんでもないことになる。父親のサダムが人格者に見えるくらい、異常なバカボンである。そんな男と暮らすスリリングな日常を、観客も疑似体験できる。
どうしてこんなに詳細に描けるかといえば、この映画が本物のラティフ自身の体験記の映画化であり、彼自身も脚本その他に深くかかわっているからだ。つまり、この映画は基本的には実話である。
エピソードの数々は、そこそこ残酷な描写も交えながら紹介されるが、女関連以外はそれほどショッキングな異常性とまではいかない感じもする。寵愛を受ける女の役でフランス出身のリュディヴィーヌ・サニエが何度か濡れ場を披露するが、相変わらずその手の演技が抜群にうまい。決してナイスバディとか美人というわけではないが、たいていの男はハマるだろうなと思わせる色気がある。アカデミー賞にもし最優秀腰の動き賞というものがあれば、真っ先に受賞させてあげたい逸材である。
ベルギー映画ということで、それほどの政治的メッセージも感じない。これがアメリカ映画であれば、また一味違った香ばしさが追加されていただろうと思うと、その点が少々惜しい。