『源氏物語 千年の謎』15点(100点満点中)
2011年12月10日公開 全国東宝系 2011年/日本/カラー/136分/配給:東宝
製作総指揮:角川歴彦 監督:鶴橋康夫 原作:高山由紀子 出演:生田斗真 中谷美紀 窪塚洋介 東山紀之 真木よう子 多部未華子 蓮佛美沙子

≪監督にすべて任せておけばいいものを≫

源氏物語は謎多き古典である。作者は紫式部といわれるが、すべてを彼女が書いたとするにはおかしな点があると指摘する複数作者説も根強い。そもそも正式なタイトルすらよくわからないとされている。

『源氏物語 千年の謎』と壮大なタイトルをつけるからには、そうした定説に対し、なにか大胆な絵解きの一つもしてくれるものかと期待したが、どうやら期待すべき点を間違っていた。

ときは平安時代。「この世をば わが世とぞ思ふ」藤原道長(東山紀之)は紫式部(中谷美紀)の身体を奪い、娘・彰子のために物語を書けと命じる。彼女は美しき光源氏(生田斗真)を主人公にめくるめく恋愛模様を生き生きと描写してゆく。

光源氏のモデルは諸説あるが、この映画では道長自身が自分がモデルだと思い込んでいる。のっけから道長=式部愛人説を思わせる濡れ場から始まるこの映画版は、すぐに物語世界へと移行。かつてドラマ版で光源氏を演じた東山紀之からバトンを受け取るように、若き生田斗真による奔放なラブストーリーが展開する。

『源氏物語 千年の謎』最大の問題は、コンセプトがはっきりせず、いったい誰に向けて、何をしたかったのかがさっぱりわからないところだ。

現実の紫式部と、フィクションたる光源氏の世界が、境界をあいまいにして混じりあう独特のファンタジックな世界観を追及するのか。それとも女性向けに甘く絢爛な時代劇にするのか。あるいはお父さん向けにエロエロ官能もありとするのか。どれも中途半端で煮え切らない。

ドラマとしてもダイナミズムに欠け、源氏が様々な女性と恋をするその理由はおろか、六条御息所(田中麗奈)に恨まれる理由さえはっきりとしない。むろん、源氏物語を知る者にとっては自明なことだが、これは厳密には紫式部の源氏物語の映画化というわけではない(原作者は高山由紀子)から、省略していい理由にはなるまい。

目的不明、終着駅不明の列車に乗った気分でみていると、突然安倍晴明がCGお化けと戦うアクションが始まったりする。ここで安倍晴明を演じる窪塚洋介ときたら、役作りやセリフの言い方など、どこからどうみても窪塚洋介にしか見えない。最高権力者の道長とタメ口をきいていたりと、まじめな研究者が見たら椅子から転げ落ちそうなキャラクターを楽しませてくれる。

思うに、こういうものが出来上がる原因は製作側に問題がある。鶴橋康夫監督のような人物に現場を任せておきながら、女性客を呼ぼうと色気を出してみたり、人気重視で制約の多い俳優をキャスティングしたりと困らせている様子が目に浮かぶようだ。そんなことになる理由は、もともと明確なコンセプトがなく、大勢が集まって言いたい放題、それぞれの利害関係を詰め込んでいるからではないのか。

それでも鶴橋監督は力があるから、シーン単位の出来栄えは見事なものである。女優たちは美しく、男優は凛々しく。華やかな平安絵巻の世界を、現代的な明るく高精細な映像の中で実現している。映像が細かくなるほどセットや衣装のあらが目立つので時代劇は安っぽくなりがちだが、この映画はそういうことはない。

この品質のまま、監督が得意な(?)官能ロマンに仕上げていれば、相当なものができただろうに。桐壷と藤壺の二役を演じる真木よう子や夕顔役の芦名星などは、それにこたえる女優魂も持っている。つくづく残念である。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.