『リアル・スティール』75点(100点満点中)
REAL STEEL 2011年12月9日(金)、丸の内ピカデリー他全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/128分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ/ロバート・ゼメキス他 監督:ショーン・レヴィ 脚本:レスリー・ボーム、ジョン・ゲイティンズ 出演:ヒュー・ジャックマン エヴァンジェリン・リリー アンソニー・マッキー ダコタ・ゴヨ
≪ボクシング映画に外れなし、か≫
日本はロボット先進国である。Hondaには二足歩行ロボットのASIMOがいるし、ソニーはかわいいアイボを開発した。財務省には野田首相がいるし、アメリカには日本国財務省がいる。どのロボットも世界に並ぶものなしの高性能なものばかりだ。
だからディズニーのロボットムービー『リアル・スティール』が、劇中でやたらと日本推しをしているのも、当然といえば当然である。
2020年のアメリカでは人間による格闘技はすたれ、代わりに人型ロボット同士が戦う派手なロボットボクシングが大人気。元ボクサーのチャーリー(ヒュー・ジャックマン)は、ポンコツロボットを操縦して主にアンダーグラウンドの試合で日銭を稼ぐ日々を過ごしていたが、家賃さえろくに支払えぬ始末。そんな彼の前に、11年ほど前に捨てた妻が死んだ知らせとともに、彼女に押し付けたはずの息子マックス(ダコタ・ゴヨ)が現れる。
さて、いろいろあってひと夏マックスを預かることになったチャーリーだが、父子といっても面識などない。お互いに対する愛情なんてゼロ。二人して面倒な邪魔者扱いである。そしてチャーリーは今ではすっかり落ちぶれたダメンズであり、短気な性格から大切なロボットもおしゃかにしてしまう。
しかしながらマックスは利口な子で、彼の直観と、自分と他者を信頼する心がチャーリーを変えてゆく。どん底まで落ちた二人が、泥だらけのゴミ捨て場に打ち捨てられた旧式ロボットATOMと出会う場面は、この上なくドラマチックで涙を誘う。
そこからは多分に「ロッキー」を意識した二人プラス一台の下剋上ストーリーが展開する。旧式ながら最新型にはないある機能を武器に、このATOMは意外な活躍を見せるのである。それ以上は語るまいが、泣ける度100のファミリー映画である。さすが、ディズニーは大人を泣かすのがうまい。こういう映画を父子で見られたら、どんなにか幸せだろうと思う。子供にとってもきっといい思い出になるはずだ。
冒頭で書いた「日本推し」についてだが、まずボクシング試合会場にはガンダムを彷彿とさせるオブジェが飾られているし、マックスが着るのは日本語のTシャツ。劇中に出てくる最強のロボットデザイナーは日本人という設定だし、ロボットボクシング界でも日本製は相当強いという事になっている様子。主人公たちが操るロボットの名前については言わずもがな、だ。
だが、何よりこの作品が日本マインドに支配されていると思うのは、ここに出てくる二足歩行のロボットボクサーから、なんら軍事的な香りがしないことだ。
考えてみれば、この世界ではおそらく数百万円程度でボクサーロボットが買える設定になっているのに、ボクシング以外の場でロボットがそれほど普及しているようには見えない。つまり、単なる道楽、見世物のためだけに想像を絶するハイテク機器を開発しているわけで、こんな発想は日本人以外にはありえない。
もしアメリカにこんなロボットを開発する技術力があれば、まずは軍事用にしようと考える。むしろ、そういう発想がないのは世界広しといえど日本人だけ。その意味で本作の世界観は、100%日本的な思想に基づいており、だからこそ究極の日本推し作品であるといえるわけだ。
ポンコツロボが最新ロボと互角に戦う説得力も脚本上にきっちり描いているし、スペクタクルシーンの映像のクォリティは最高級の日本映画のそれを軽く上回る。ロボットボクサーの動き=モーションキャプチャーや主演ヒュー・ジャックマンのボクシング指導をシュガー・レイ・レナード(70〜80年代のボクシング界で活躍したスーパースター)がやっているというのだから、レベルの高さは推して知るべし。子供向き映画でこれほどしっかりした映画を作ってしまう、さすがはハリウッドである。
それでも細かい突っ込みどころは多々ある。そもそもATOMは父子が無断で取ってきた盗品であり、この物語全体が盗んだバイクで走り出す尾崎豊状態になっている。だがそんな事を考えているとせっかくの感動がスポイルされるので、寛大な心で見て見ぬふりをするのが良き父親としての務めである。