『インモータルズ -神々の戦い-』70点(100点満点中)
Immortals 2011年11月11日(金) TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/111分/配給:東宝東和
監督:ターセム・シン 脚本:ジェイソン・ケラー、クリスチャン・グーデガスト、チャーリー・パーラパニデス、ヴラス・パーラパニデス 衣装:石岡瑛子 出演:ヘンリー・カヴィル フリーダ・ピントー ミッキー・ローク ルーク・エヴァンス

≪わがままな神々は誰の比喩か≫

「300 <スリーハンドレッド>」のスタッフによる本作は、あの美しいスローモーションな格闘戦闘の進化形を3Dで楽しめるゴージャスなアクション映画。おまけに今回画面で殺しあっているのはギリシャ神話の神々。ある意味不謹慎な内容に苦笑してしまう一本でもある。

野望を秘めた王ハイペリオン(ミッキー・ローク)は、闇の神の封印を解くカギを探してギリシャに侵攻をはじめた。一方、闇の神の復活を防ぎたいゼウス(ジョン・ハート)は、その望みを託した人間テセウス(ヘンリー・カヴィル)のそばで、密かにその成長に力を貸していた。

人間世界の比喩でもあるのだろうが、ギリシャ神話の俗っぽさは現代向き、映画向きだなと実感する。まして当のギリシャがあんな状況で、そのテキトーな国民性が明らかになっているからなおさらだ。

本作は、厳密な意味での映画化ではなくギリシャ神話をネタに好き放題やりました的な大胆なアクション作なので、余計にそう感じる。

とくにゼウスはじめ神さま連中の行動ときたら、我々からみれば身勝手そのもの。勝手に定めた掟とやらを守りすぎ、介入遅すぎ。そのおかげで事態は悪化の一途という、まさに貴重な教訓を与えてくれる。日銀幹部はすぐにこれを見たほうがよかろう。

その後のアクションシーンのえげつなさときたら爆笑するほかないもので、人体爆裂、神さまたちも遠慮なくドバドバと死んでゆく。信仰心の高い方々がみたら、ひっくりかえる内容である。

有名な神々はそれぞれ見せ場を与えられるが、特に印象に残るのがアテナのハイスピードな戦闘能力。ロングヘア美少女(イザベル・ルーカス)が立ち回るその様子は、日本の美少女アニメそのもの。きっと監督もそのあたりを意識したのだろう。なお人間への優しさなど、一応神話上の性格を反映したキャラづくりになっている。

それにしても神々が出てきてからの格闘アクションは動きがめまぐるしい。一瞬しか出ないような神様にも親切に日本語字幕がお名前を出してくれるので、ぎりぎり誰が何をしているのか理解できるものの、こんなにゴチャゴチャしていると、胸にゼッケンはって名前書いとけよとぼやきたくなる。

個人的に笑えたのが、へたれなギリシャ軍がテセウスの口車で豹変するシーン。あまりに単純すぎるそのご都合主義が、現実のギリシャ人のニュースとどうしてもダブってしまう。これは扇動に乗りやすい国民性を皮肉っているのか。わがままなデモ隊の前でも同じように言って変えてくれよテセウスさんと、思わず言いたくなる。

映画としては、ありがちな展開が鼻につくもののアクション作としての出来は標準以上。ギリシャ神話ファンなら普通に楽しめる気楽な作品となっている。描写は少々残酷なところがあるので、そういうものが苦手な人にはすすめないが、独特のアクション演出は一度は見ておいてほしいところだ。



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