『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』50点(100点満点中)
Captain America: The First Avenger 2011年10月14日(金)丸の内ルーブル他、全国デジタル3Dロードショー 2011年/アメリカ/カラー/124分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督:ジョー・ジョンストン 脚本:クリストファー・マーカス、スティーヴン・マクフィーリイ、ジョス・ウェドン 出演:クリス・エヴァンス サミュエル・L・ジャクソン ドミニク・クーパー ヒューゴ・ウィーヴィング トミー・リー・ジョーンズ

≪綺麗ごとの名のもとに大量殺戮≫

来年公開予定の「ジ・アベンジャーズ」をゴールとする幾多のマーベルコミック映画の、単独ヒーローものとしては最後の1本。アイアンマンやハルク、マイティソーらが集結する「ジ・アベンジャーズ」は空前のオールスターヒーロー映画となる予定だが、05年の企画開始から始まる長きこのシリーズも、いよいよ佳境となるわけだ。

ときは1941年、ナチスドイツが欧州でその力をふるっていたころ、正義感の強いアメリカ人青年スティーブ(クリス・エヴァンス)は祖国と自由を守るため軍に志願しては不合格の烙印を押される日々を過ごしていた。というのも、スティーブは女性並みに体が小さく、何も知らない周りからは嘲笑されているほどだった。だがアースキン軍医(スタンリー・トゥッチ)はただ一人、そんな彼の鉄の愛国心を見抜いていたのだった。

さて、そんなもやしっ子のスティーブは、心優しい博士のはからいでスーパー兵士づくりの実験台として採用される。そんなものに採用されて幸せなのかどうかは知らないが、この実験というのがすごい。

博士と軍需企業の技術者兼社長スターク(ドミニク・クーパー)がつくった高性能日焼けマシンに入ってスイッチポンすると、一瞬で身長も体重もデカくなり、バルキーなアメリカンマッチョへと変身してしまうものだ。

映像技術として見てもこの激変はえらいインパクトである。演じるクリス・エヴァンスの全身にCG処理を施し、ブルワーカー前のひ弱な身体と、後のマッチョマンのうち一方を完全に作り上げている。どちらが嘘っぱちかはあえて書かないので、皆さんの目でぜひ見抜いていただきたい。

こういうお手軽筋肉製造マシンは、時代を超えてマッチョ志向のアメリカ人にはたまらない夢であり魅力だろう。なにしろ高校生からアナボリックステロイドを使うお国柄である。望む肉体レベルまでの最短距離を行く、そのどこが悪いのだというのが彼らの発想。さすがは合理性を尊重する国民である。ちなみに理性ある他国民はそれを、後先考えぬバカと表現する。

そんなアメリカ一のバカ、いや愛国者たるスティーブは、鉄の心とそれ以上に強靭な肉体を得ることでスーパー戦時ヒーロー「キャプテン・アメリカ」として生まれ変わる。

ここからが面白く、そして含みある展開なのだが、じつはスティーブは「キャプテン・アメリカ」になったあとも、戦場でナチス相手に大活躍するという当初の望みを即かなえられるわけではない。彼が軍からどんな業務を言い渡されるか、そこがこの映画のポイントである。厭戦気分全開のオバマ時代の米国民が、ちょうどこのタイミングでこの原作映画を見るというのも、偶然とは思えぬ話である。

この映画では、アメリカの象徴こと「キャプテン・アメリカ」が、「新生アメリカ」であることを何度も強調する。「君は弱い。だから力に敬意を払うし、その価値を知っている」。そんなセリフをスティーブがある人物から言われるのは、「力に敬意を払わなかったかつてのアメリカ」批判そのものである。ブッシュ時代は終わりを告げた、それを私たちアメリカ人は反省し、いま生まれ変わったんだよとそういうわけである。

前のアメリカは悪いアメリカ。今は逆。今の愛国心はいい愛国心。そんなキャプテン・アメリカは「誰も殺したくはない」と前に言ってたくせに、後半は大虐殺の限りを尽くす。まさに矛盾。キングオブ矛盾を地で行く覇権国家の名を冠しているだけはある。勇ましい音楽をバックに大暴れするマッチョマンの姿を見て、私は笑いを止められなかった。

ちなみにアクションシーンは平板で、3D効果も弱く、私なら追加料金を支払わずに2Dで見る。内容を深読みせず、気楽に楽しむのは少々きつい出来栄えである。

ひよわな国士さまがドーピングマシンで大変身。お国のために大活躍するアクション映画。日本でも俗にいうネトウヨ主演で同じストーリーが作れそうだ。ラストはデモで出会ったカノジョと結婚して引退。こっちのほうがキッチリとオチがつけられる。該当の映画会社諸氏は、企画が通った際には真っ先に内覧試写に呼ぶように。



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