『極道めし』60点(100点満点中)
2011年9月23日(祝・金)、新宿バルト9ほか全国ロードショー 2011年/日本/108分/ショウゲート
監督:前田哲 脚本:羽原大介 前田哲 原作:土山しげる 出演:永岡佑 勝村政信 落合モトキ 麿赤兒

≪くだらなさの極みをほのぼのと描く≫

飯を食わないグルメ漫画という、究極のキワモノ系として人気の高い原作が、ついに実写映画になった。なぜ飯を食わないかというと、舞台が刑務所の雑居房だからだ。ということでまずストーリー。

年の瀬も近いこの刑務所のある一室では、毎年恒例のあるゲームが行われていた。それは、一人ずつ「自分の人生で忘れられない料理」を語り、一番うまそうだった料理を語った者が優勝賞品として、全員の正月おせちから1品ずつゲットできるというもの。刑務所では、年に一度のおせちは何よりのごちそうであり、最大の楽しみ。語り始めた男たちの目は真剣そのものだ……。

当然ながら現実の食事シーンでは、ぱさぱさの刑務所メシしか出てこない。一方で彼らが語る「思い出のウマメシ」は、回想シーンながらどれもこれも美味しそう。そのギャップがいいアクセントとなっている。むらなくやけた真円のホットケーキはほとんど職人技だし、すき焼きのしめの○○○の、みるからにこってりしたビジュアルなど、食前に見たらたまらない。料理がうまそうに見えるという、グルメ映画の基本線はとりあえずクリヤーしている。

原作『極道めし』の面白さは、いい年したコワモテ囚人らが、うまかったメシについて語るなどという、小学生並の遊びを全員が100%本気でやっている滑稽さにある。味気ないメシと退屈がきわまると、どんなに強い男でもここまで退行するのかという笑いである。

この点映画版はやや優等生すぎるつくりで、突き抜けたバカっぽさが足りない。むしろ、各々のソウルフードにこめられたエピソードで観客を泣かせようという方面に重点が置かれている。そりゃ最後は泣けるほうが収まりがいいが、途中はもっと笑わせてくれないと物足りない。

もっとも、刑務所モノがグルメコメディーになるなんて国は、日本以外にはなかなかあるまい。ここは我が国の刑務所の治安の良さを誇りに思うべきか、ノーテンキな平和脳を危惧するべきか、微妙に迷う。少なくとも、収監されたインターネットの成功者に果物ネットを作らせるあたり、日本の刑務所にブラックユーモアのセンスがあることは確かだが……。

映画の終盤、全員でおせち料理をたべる場面があるが、皆の本当に嬉しそうな表情を見ると、しんみりとした感動がある。飽食の現代人が忘れてしまいがちな、食に対する感謝というものがここには表れている。

とはいえ、肉もお米もキノコも野菜も、みんな仲良く怪しいセシウムさんになってしまった今となっては、素直に感動すらもできやしない。とんだ時代になったものだ。



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