『アジョシ』60点(100点満点中)
The Man From Nowhere 2011年9月17日(土)より丸の内TOEIAほか全国ロードショー! 2010年/韓国/カラー/119分/R15+ 配給:東映
監督:イジョンボム 出演:ウォンビン キム・セロン キム・ヒウォン ソン・ヨンチャン
≪随所に光るアクション演出≫
『アジョシ』とは「おじさん」の意味。この映画は、隣人をそう親しく呼んでなついている少女と「アジョシ」と呼ばれる男の、孤独な者同士の愛を主題にしたハードボイルドなアクションドラマである。中年男と少女の関係から、ヒット作「レオン」を引き合いに出す韓流ファンも少なくない話題作といえる。
薄汚れたビルの一室でひっそり質屋を営む、何やらわけありの男テシク(ウォンビン)。そんな彼の優しい心根を見抜いたのか隣人の少女ソミ(キム・セロン)は、クラブダンサーとして娘をないがしろにする母よりもテシクになつき、店に入り浸っていた。そんなある日、母親がドラッグ関連で犯罪組織とトラブルをおこし、ソミは誘拐され、彼女を守ろうとしたテシク自身も警察に身柄を拘束されてしまう。
いくつかの謎をはらんだまま、犯罪組織からの奪回劇が進んでゆく。この主人公はなぜこんなに格闘戦闘が強いのか、なぜ落ちぶれた暮らしに甘んじているのか。なぜうっとうしい女児に思わず優しくしてしまうのか。探しに来た母親から匿って、奥の部屋で二人きりで食事をしたりなど、彼らはとても親密である。
これがもし、某大手掲示板あたりで日がな書き込み活動に精を出しているような中年男性等であれば、同じ"おじさん"でも単なる性犯罪者と見られてしまうところだが、美形のウォンビンにそうした疑いを持つ者はいない。
実はこの主人公には隠された過去があり、だからテシクはこの少女のため命を懸けられるのである。他人であっても、二人の間には確固たる愛の絆があり、そこに観客は涙する。「レオン」より良かったという韓流ファンの声は話半分で聞いておいたほうがいいが、これはこれでなかなか見ごたえのある「性愛抜きのラブストーリー」といえる。
中盤のたるみはともかく、個人的にはっとしたのは、ウォンビンによるアクションシーンの数々である。窓をぶち破る彼の背中をカメラが追いかけるトリッキーな映像とか、クライマックスに暴れん坊将軍のごとく犯罪組織を一人でぶち殺して回る姿などは、男性向きの本格アクション映画でもなかなか見られない迫力である。テレビでは甘いラブコメにうっとりする韓流好きの女の子(注:35歳以上)も、映画ではこんなに痛々しい残酷描写多数のドラマを好むのだろうか。女性ファンの受け入れ間口の広さには驚かされるばかりである。
もうひとつ、特筆すべきはウォンビンの肉体づくりについて。これ見よがしに6パックの腹筋を見せつけるショットには苦笑するが、それにしても大した摂生ぶりだ。あれを作り上げるには相当な努力が必要であったはずだ。
こうした点は、最近話題のお台場デモ隊にとってもお邪魔虫の、単なる韓国嫌いなレイシスト会の若者たちも見習ってほしいところである。