『世界侵略:ロサンゼルス決戦』80点(100点満点中)
Battle: Los Angeles 2011年9月17日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2011年アメリカ映画/スコープサイズ/全6巻/3,182m/SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR/1時間56分/字幕翻訳:太田直子/PG12 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ジョナサン・リーベスマン 脚本:クリス・バートリニー 出演:アーロン・エッカート ミシェル・ロドリゲス ラモン・ロドリゲス ブリジット・モイナハン

≪必死過ぎ米国、国威発揚大作を堪能できる≫

この映画は、東日本大震災で日本公開が延期された作品の一つだが、一刻も早く見ておくべき重要なアメリカ映画である。

流星群が各大陸の沿岸部近海に降り注ぐ事件が起きた。あるトラウマから退役届を出したばかりのマイケル・ナンツ2等軍曹(アーロン・エッカート)も、この非常事態を受けLAの基地に召集される。だがたたき上げのベテラン海兵隊員であるナンツは、事態がたんなる気象現象ではない事にやがて気づかされる。NASAでさえその軌道を把握できなかったこの未確認物体は、単なる隕石ではなかったのだ。そしてその直後、ナンツはかつてない過酷な地上戦に巻き込まれる。

本作は、次々と公開されているエイリアン侵略映画の決定版。いまやアメリカ合衆国は、ホームレスのエイリアンから引っ張りだこ、地球一の人気スポットなのである。あんな不景気で治安の悪いところを侵略するより、のんびりした南国にでも行けばいいのにと思うが、情弱エイリアンたちは懲りずに毎回アメリカと戦ってばかりいる。

そう、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』は、圧倒的科学力・軍事力を持つ異星人と、ロサンゼルスの最前線を死守する海兵隊員たちの死闘を描いたリアルバトルムービーである。

その演出ひながたはまじめな戦争映画のそれで、未知なる相手を索敵する恐怖、侵略される側の絶望など、コメディーや絵空事に逃げることなく真正面から描いている。流行の3Dも、あのメガネをかけるだけで現実感をそぐため、あえて採用していないと思われる。これはストリクトな戦争映画なのだ、そういう風にみてくれと、暗に伝えているわけだ。

その前提および、ここ数か月のエイリアン侵略ムービーの流行という文脈の中でこの映画を見ると、本作はじつに興味深い。

まず常識として、こうした映画で描かれるエイリアンとは、アメリカにとって広義の外敵、外患を暗喩しているわけだ。そこで描かれるのは、国民は軍(または政府)と一丸となって戦おう、一緒に敵を倒そうとの国威発揚メッセージである。ノー天気な大多数のアメリカ国民は、この手の映画に感動して、「やっぱり国難を前にしたら団結しなきゃな」「やっぱりいざというとき軍隊(政府)は頼りになるな」と納得して、帰り道でチーズバーガーを食べ満足して帰るのである。

とはいえいまの米国の厭戦世論は根強く、下手にハリウッドが煽ると反発が大きい。そこで本作などは、その正体が海兵隊提供のアメリカ軍バンザイ映画であるにも関わらず、軍そのものを宣伝はしない。

このあたり、さすがはアメリカ映画産業の空気を読む能力は世界一。彼らは大衆の反感を買わぬよう、あくまで現場で戦う兵隊さんに感謝・賛美するにとどめる。原発事故後、東電を擁護したい御用コメンテーターが、さすがにそれはできないので現場の社員を絶賛していたのと同じ心理である。汗を流す末端の人間をほめておけば否定はできない。ずるがしこいプロパガンダ戦術だが、そこまで気を使わざるを得ない現状に、米国民の混乱と自信喪失がうかがえる。

それでも「軍は絶対に(国民を」見捨てない)」「海兵隊に入ってくれ、ともに戦おう」などといったセリフが多数飛び出し、民間人が自ら進んで銃をとり共に戦う展開。民軍団結の美しさを高らかに謳う、それこそがこの映画の肝である。

私はここ数か月の米国のエンターテイメント映画をつぶさに見てきて、とてもいやな予感を感じている。長年ハリウッド映画とアメリカ政治をウォッチしてきたが、こんな不穏な気持ちになった事はない。最後に明らかになるエイリアンの目的も思わせぶりだ。この不安が杞憂で終わればしいが。

映画自体は、海兵隊協力のもとキャストは本場のブートキャンプにも参加。後ろで走り回るエキストラも本物の海兵隊員である。本格的でディテール豊かに現代アメリカ軍の地上戦を再現しており、マニアも喜ぶだろう。実際にエイリアンが侵略してきたら、きっと米軍はこうやって戦うんだろうなと想像しながら見ると楽しい。スケールの大きなホラ話をやるならば、これくらいリアリティにこだわらなくてはいけない。フィクションづくりの鑑のような、さすがはハリウッドと言うべき「戦争映画」である。



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