『シャンハイ』60点(100点満点中)
SHANGHAI 2011年8月20日(土)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2010年/アメリカ・中国合作/カラー/105分/配給:ギャガ
監督:ミカエル・ハフストローム 脚本:ホセイン・アミニ 出演:ジョン・キューザック コン・リー チョウ・ユンファ 渡辺謙 フランカ・ポテンテ 菊地凛子

≪上海租界の諜報員たちの恋のドラマ≫

映画『シャンハイ』は上海租界における壮大な歴史ロマンスだが、当事国同士で見解が一致しないこの時代の歴史を舞台にすることの難しさを感じさせる、どこかすっきりしない後味であった。

1941年の上海では、日本と欧米列強がひしめき合い、諜報員たちが暗躍していた。開戦前夜の緊張感が高まるこのころ、米国諜報員の殺害事件がおきる。その真相を追うポール(ジョン・キューザック)は、事件に日米中の様々な男女が絡んでいることを知る。やがて裏社会の大物ランティン(チョウ・ユンファ)の妻アンナ(コン・リー)に惹かれゆくポールは、彼女と交流を深める中でタナカ大佐(渡辺謙)とスミコ(菊地凛子)という娼婦が解決のカギを握っている事に行き着く。

「南京で親がひどい目にあった」ヒロインと、心優しい米国人諜報員のロマンスが主軸。日本軍は悪役として、悲劇の舞台を盛り上げる役回りを与えられる。

それにしてもこの殺害事件の真相を見て、私は悪い意味で茫然とした。まさかあんなくだらない動機だったとは予想もしなかった。米中合作映画だからといって、こんなにも米中善人扱いがあるものかと思わず失笑である。

基本的にはいい歳をしたおっさんとおばさんが、ほれたはれたをするだけなので、本格的な歴史ドラマを求める人には向かない。重厚な当時の建物をうまく撮影に利用した上海の街並みや、きら星のごときスターの競演によってゴージャスに彩られてはいるが、むしろ本作は恋愛ドラマが好きな女性などが気楽に楽しむのに適している。

どの役者も個性を発揮してファンをうっとりさせるが、とくに渡辺謙とチョウ・ユンファのファンは必見か。二人とも、お約束というべき見せ場を用意され、さすがの存在感を見せつける。女優陣だと主演のコン・リーは、男たちの寵愛をうけるヒロインにしてはあまり魅力を感じさせないが、菊地凛子のカメレオンな役作りは毎度ながら印象深く、出番が少ない割には心に残る。

歴史にうるさい人が見ると、いろいろ突っ込みどころが多いと思うので、我こそはという方はチャレンジしてみては。ちなみに登場人物には実在のモデルがおり、その多くは複数の人物のエピソードをまとめているそうだ。



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