『カンフー・パンダ2』70点(100点満点中)
Kung Fu Panda 2 2011年8月19日(金)新宿ピカデリー他 全国拡大ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/90分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
声の出演:ジャック・ブラック ダスティン・ホフマン アンジェリーナ・ジョリー ジャッキー・チェン 吹替版:山口達也 笹野高史 木村佳乃 石丸博也
≪前作よりいろいろな意味で出来がいい≫
前作は四川大地震の直後に中国で公開され、上映中止運動など物議をかもしたが、この続編の直前には東日本大震災が起こった。時代を代表する映画作品には特別な引力があるものだが、このシリーズの災害との因縁も相当なものである。
伝説の龍の戦士となり、マスターファイブの仲間とともに国の平和を守るパンダのポー(声:山口達也)。そんな彼の前に新たな敵、シェン大老が現れる。世界征服を狙うシェンを阻止するため、早速旅支度をするるポーだったが、彼はこの旅で自らの出生の謎とも向き合うことになる。
アクションがよかった前作より、さらに進化した動きが見どころ。前後左右はもちろん、底知れぬ谷や崖を落下するなど上下方向の動き、さらには出来のいい3Dによる奥行きを生かした、文字通り360度を目いっぱい使った素晴らしいカンフーアクションを見ることができる。体はメタボだが、動きは高速。実写では不可能なアングルを大胆に動き回るカメラワークも派手派手で、子供向きアニメながら大人をも唸らせる映像的な見せ場が連続する。
カンフーVS.強力無比な大砲という対決の構図もシンプルで、余分な伏線をはらない明快なストーリーもわかりやすい。動きが早すぎるような気もするが、低年齢の子供たちにも見せられる良質な作品となっている。
テーマは「始まりは悪くとも、幸せになれる」という、まさにポスト震災のわが国にぴったりなもの。私たちはひどいスタート地点にいるが、絶対に絶望などするなとの心強いメッセージ。繰り返されるそのモチーフは説得力満点で描かれ、大人の観客の涙を誘う。
主人公のパンダは鈍感力満点の頼もしいキャラクターで、どんな不幸を目の当たりにしてもウジウジすることはない。悲壮感とは無縁のその生き方、ちょいと見習いたくなってしまう。
さて、アメリカの忠犬こと小泉政権が終焉した途端、親日的な作品が影を潜め、中国をフィーチャーした大作を連発しだしたハリウッド。
その中でもこのシリーズは最も成功を収めたもの。パンダ外交の言葉で知られるように、パンダを政治的なシンボルとして利用している中国共産党政府にとっても、パンダが中国の動物だと強く印象付けるこうした作品は都合がいい。
だから前作が中国内で大規模公開され、記録的な大ヒットをしたのは偶然ではない。無料で自分たちがやりたい最高のプロパガンダ目的を達してくれたのだから、中共政府はドリームワークスに頭が上がらないはずだ。
一方、激しい侵略と虐殺を受け、命も文化も奪われたチベット人は、いまや自分たちの国の動物であるパンダまで奪われてしまった。さぞ苦々しい思いでこのシリーズを見ているに違いない。
だが、ここが皮肉なところなのだが、この続編の設定はなんだか思わせぶりである。
たとえば今回の敵の目的は、武器づくりに使用する金属を集めること。そのために中国大陸のド田舎に侵略し、金属の略奪を繰り広げる。
これはどう見ても、レアメタルの独占を遂行する中国政府への皮肉である。それに対抗するパンダ(=チベットの動物)の図は、見ようによってはそうとう危険な政治的タブーである。
中国文化に深い造詣を持つマーク・オズボーン監督が、何を考えてこんなシナリオを採用したのかはわからない。前作は中国プロパガンダ的内容だったのに、いったいどうなっているのか。偶然か、意図的か。
こうした含みに気付かなかったか、この続編は中国内でも公開されヒット中と聞くが、最終的にどんな評価を受けるのか、気になるところだ。