『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜』75点(100点満点中)
2011年/日本/カラー/112分/配給:松竹
監督:川村泰祐 原作:秋本治 脚本:森下佳子 出演:香取慎吾 香里奈 速水もこみち 深田恭子 谷原章介 ラサール石井

≪亀有映画史上最高傑作≫

「こち亀」は原作漫画からアニメーション、舞台版やら実写ドラマと、アニメ版開始時に目立った原作原理主義者がすっかり時代遅れになるほどに、あちこちに勢力を広げている。

『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜』は、香取慎吾主演の、これまた賛否両論が渦巻いたテレビドラマ版の映画化。安直すぎるパロディ邦題から、どうせばか騒ぎをするだけのくだらないギャグ映画だろうとの先入観を持ちがちだが、意外や意外。批評家たちが絶賛するほどの、まっとうな感動ドラマになっている。

両津勘吉(香取慎吾)は、小学生時代の初恋の相手、桃子(深田恭子)と再開する。旅芸人一座の座長として浅草にきていた彼女には、かつての桃子を思わせる愛らしい娘ユイ(川島鈴遥)がおり、両津はすぐに打ち解ける。シングルマザーの桃子に再び恋心をつのらせる両津だったが、そんなときユイが何者かに誘拐される事件が起きる。

すっかりおなじみとなった、亀有商店街軍団の給料争奪戦アクションから始まる本作は、下町の人情味、両津の純粋な少年心、昭和ノスタルジーといった、原作が時折見せる感動ドラマとしての魅力をすべて備えている。アイスの当たり棒の偽造といった、みみっちぃにもほどがあるイタズラ警官ぶりもほほえましい。個人的に一番笑ったのが、桃子がシングルマザーだと知った時の両津の両親の反応。物事、見方を変えればいくらでも幸せになれる、そんな前向きな気分にさせてくれる気持ちのいい笑いが、この映画にはたくさんある。こち亀の魅力とは、まさにそこにある。

キャストからスタッフに至るまで、こういった原作の魅力をよく研究しているなと感じられる。根本部分がしっかり「こち亀」しているから、眉毛がつながっていないうえにいやに身長が高く、若すぎる両さんにもすぐに慣れる。ドラマ版未見の人でも全く問題はない。

願わくば、もう少し予算を組んで、シリアスな場面、たとえば捜査風景にはリアリティをしっかりと出して、ギャグ部分との落差を激しくしたらなおよかったろう。真面目な部分までマンガチックでは、ちょっともったいない。

それでも、亀有を舞台にした映画としては史上最高の傑作であることに疑いはない。浅草生まれの亀有育ちでどちらの町も知り尽くしており、「こち亀」初期の一番面白かった時期をリアルタイムで楽しんだ私としても、これならば許せるというレベルに仕上がっている。

何よりちゃんと亀有、浅草でロケをしているのがいい。商店街チェイスのシーンなどは路地裏一本にいたるまでどこで撮影したか全部わかる、亀有専門家の私からみても、これは高く評価したい部分である。

これからも毎年実写版こち亀を作り続け、大都会亀有を日本最大のコンテンツ発信地にすることが、日本の国益にかなっているのは言うまでもない。そのためならば、私も協力を惜しまない所存である。民主党の文化振興担当者は、すぐに連絡をよこすように。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
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