『スーパー!』85点(100点満点中)
Super 2011年7月30日よりシアターN渋谷にて公開!他、全国順次ロードショー!! 2010年/アメリカ/カラー/96分/ドルビーデジタル/英語/デジタル上映 配給:ファインフィルムズ
脚本・監督:ジェームズ・ガン『スリザー』 出演:レイン・ウィルソン エレン・ペイジ リヴ・タイラー ケヴィン・ベーコン
≪オトナのためのヒーロー映画≫
何のインパクトもないタイトル、中年男のコスプレ姿が移った場面写真。これでこの映画を見ようと思う人は、よほどの変わり者としかいいようのない。普通なら、なんら惹かれるところのない作品である。
しかし私レベルにもなれば、わずかそれだけの情報からでも傑作の香りを感じられる。さらにスタッフキャストの名を見て、これはかなりの確率で「当たり」だなと予想して試写を見に行った。結果、予想通り、いや予想以上の良い映画であった。
美人の妻(リヴ・タイラー)をもらったことが人生唯一にして最大の幸せである、平凡な食堂職員フランク(レイン・ウィルソン)。ところがイケメンのドラッグディーラー(ケヴィン・ベーコン)に妻を奪われ、その怒りでついに覚醒する。神の啓示をうけ、フランクはヒーローになることを決意。自作の赤いヒーロースーツに身を包み、夜の街に悪を求めて出かけるのだった。
あらすじを書くと相当無理があるように思えるが、語り口がうまいので違和感なく物語に入り込める。
映画のオープニングはアニメーションになっているが、ここで作り手はあえてエグい描写を見せることで、この映画がブラックジョーク満載の、かなりぶっ飛んだ作りですよと警告している。それを受け止めたうえで、いよいよ強烈な本編の始まりだ。
ストーリー展開としては、ダメ男が奥さんを奪い返そうと奮闘する愛のお話ではあるが、主人公がキモい上にいきなりヒーローになる発想も無茶苦茶。コミック書店のオタク店員(エレン・ペイジ)との痛々しい交流も、失笑と苦笑の連続である。
自称ヒーローになったあとも、やっていることは微罪のチンピラを凶器で不意打ちして殺害寸前まで叩きのめすという、卑怯なうえに過剰防衛、いやむしろお前の方が犯罪者だよとしかいえない状況。このシャレにならない残酷なシーンを笑い飛ばせる人は、この映画にとって最高のお客さんである。
それにしてもこの映画は何を言いたいのだろうか。
私の結論としては、ようするに「スーパー!」はヒーロー映画の幻想を叩き壊し、徹底的にリアル版としてやってみた、ということだ。その意味では映画「ウォッチメン」のコンセプトに近い。
ヒーローの誕生→トレーニング→仲間の誕生→戦い→勝利→引退 というスーパーヒーローの人生のひな形を、この映画はコンパクトに描こうとしている。ここにはヒーロー映画のすべてがある。そのすべてから、万人が安心して見られる「ハリウッドフィルター」を取り除き、狂気そのものというべき現実としてみせてくれる。そのギャップに観客はショックを受け、現実世界に思いをはせ、そして笑うわけだ。
「普通」のヒーロー映画で痛快感を感じるべき場面がこの映画にもあるが、こちらは残虐さに気持ち悪さを感じる。同様に、爽快感を感じるべきシーンでは吐き気を、感動シーンではショックを受けるようになっている。
しかし、かといって本作は、ハリウッド的なヒーローを嘲笑するニヒリズムに支配されているわけではない。
これこそが私が高く評価したい部分なのだが、これだけ現実の汚さを描きながら、それでも「スーパー!」はヒロイズムを高らかに肯定しているのである。かっこ悪いし、犯罪者だし、キモい。ヒーロー映画なんて、本当は不謹慎お下劣ホラーなんだと喝破しつつ、それでもこの映画は感動的で、希望にあふれている。まさに、オトナのヒーロー映画と評したくなるゆえんだ。
キャストでは、コミック店員役のエレン・ペイジが光る。オタ少女からキレ少女、エロ少女へと目まぐるしく変わる姿は実にかわいらしい。爆笑必至のあのシーンの面白さといったら、一人でも多くの映画ファンに見てほしいと思わず願ってしまうほどだ。
なお本作は宗教的側面からの考察も可能であり、そのあたりは別媒体でちょいと書いた。そうした方面に強い方は、この映画の監督がアイルランド系カトリックであることを念頭に置いて、注意深く見ていただけたらより楽しめるだろうと思う。