『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』70点(100点満点中)
Harry Potter and the Deathly Hallows: Part II 2011年7月15日(金)、日本語吹替版 同時上映 3D版同時上映決定 丸の内ピカデリー他 全国ロードショー 2011年/イギリス、アメリカ/カラー/130分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:デビッド・イェーツ 脚本:スティーヴ・クローヴス 出演:ダニエル・ラドクリフ ルパート・グリント エマ・ワトソン レイフ・ファインズ アラン・リックマン

≪やるべきことはすべてやった≫

気が付けば10年、8作品目。21世紀最大の超大作シリーズも、いよいよこれで幕を閉じる。『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』は、ここまで付き合ったお客さんにとっては見逃せない完結編だ。

最大の敵ヴォルデモートを倒すカギとなる分霊箱探しの旅も終わりに近づいている。17歳になったハリー(ダニエル・ラドクリフ)や仲間たちは、暗黒に飲み込まれつつある世界を前に命がけの探索を続けるが、その行く手には、ハリーの出生の秘密にもかかわるあまりに切ない幕切れが待っていた。

この最終作では、シリーズで残された謎がすべて明らかになる。といっても、世の中10年8作品の長大な物語を詳細に覚えているファンばかりではない。多くの人にとっては、そもそもどんな謎が残っていたっけ、程度の認識だろう。その意味で、本作のクライマックス周辺における伏線回収のスパンは異常なまでに長く、快感度は低い。可能ならば全作品を前日にイッキ見しておくくらいの事をしておいたほうがいいだろうが、それはあまりに大変か。

前作で結局完成しなかった3Dバージョンがようやく楽しめるのも話題の一つ。残念ながら私が見たのは2D版なのでその出来栄えはわからないが、胸の谷間がまぶしいハーマイオニー=エマ・ワトソンの、衝撃の○○○が飛び出てくるとなれば、あえて追加料金を払いたくなるのも理解できる。ただしこのシーンにおけるカメラの位置は明らかにおかしい。撮り直せと言いたい。

作品のテーマは多様だが、そのひとつ、悪というものの本質は何か。この作品のラストシーンでハリー・ポッターが象徴的に教えてくれている。ヴォルデモートがなぜ悪かといえば、それは圧倒的なあるものを持っていたからだ。ハリーはそれを文字通り身をもって知っていたから、色めきだつロンを尻目に、迷うことなくあのような選択をした。説得力は抜群、ハリーの信念と強さがよくわかる、感動的なシーンである。ぜひ注目を。

出演者の演技は、ベテランが下支えする中、若手が魅力を振りまくベストバランスで相変わらず安定感がある。魔法だの闇の帝王なんて子供向けホラ話を、これほどシリアスで見ごたえあるドラマにした功績は、永遠に語り継がれることだろう。

前編後編に分けたことで余裕が生まれ、拙速な感じもしない。やるべきことをすべてやってフィナーレを迎える。

シリーズにどれだけ思い入れがあるかが、そのまま満足度につながるであろうつくり。ご自身のハリポタ度と相談のうえ、ご鑑賞を。



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