『SUPER 8/スーパーエイト』65点(100点満点中)
SUPER8 2011年6月24日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/111分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督・脚本:J・J・エイブラムス 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ 音楽:マイケル・ジアッチーノ 出演:カイル・チャンドラー エル・ファニング ロン・エルダード
≪愛しい映画≫
3D全盛といわれて久しいハリウッドだが、イベントムービーとしては珍しいことに『SUPER 8/スーパーエイト』は2D作品である。その理由は、30代以上のおじさまたちがこの映画を見ればすぐにわかる。この作品は、絶対に最新のデジタル3Dなどというものであってはならない。
金も技術もあるというのに、あえて昔ながらの2Dである必然性のある最新作を企画し、作り出すところにアメリカ映画界の余裕と論理性を感じざるを得ない。
スリーマイル島原子力発電所事故がおきた1979年、オハイオ州に住む映画や模型好きの少年ジョー(ジョエル・コートニー)は、母親を不幸な事故で亡くしたばかり。だが、親友チャールズ(ライリー・グリフィス)や気になる少女アリス(エル・ファニング)らとの自主映画づくりが心の支えとなり、徐々に立ち直りつつあった。そんなある晩、駅舎で深夜のゲリラ撮影をしていると、彼らの目の前で貨物列車が大事故を起こす。そしてその事故以来、町には軍が駐留し、怪現象が頻発し始める。
映画好きのグーニーズたちが、見ちゃいけないものを見てしまうスリラー&アドベンチャー。UFO、異星人との交流、子供だけでの冒険、淡い恋……往年のスピルバーグ映画のエッセンスをつめこみ、最新のVFXとJ・J・エイブラムス監督らしい怪物アクションで味付けした娯楽映画。最新作なのに懐かしい、スピルバーグ世代ならば思わず愛しくなる映像作品である。
この子供軍団は、中庸な主人公に気の強い美少女、デブ、出っ歯、のっぽといった、あえて類型的なメンツが出揃う。外見を見ただけでそれぞれのキャラクターの性格がわかるという、もはや様式美の世界である。
役者の中では劇中作で驚きの演技力を見せるエル・ファニングがいい。お姉さんのダコタ同様、正統派美人かつ演技派に育っているようで何より。
子供部屋の美術にも要注目。特殊メイクのマスクや列車の模型が飾ってあったり、トランシーバーにスペースシャトルのポスターといった、これまた琴線に触れるアイテムが勢ぞろい。70〜80年代には間違いなく時代の最先端を感じさせた夢のおもちゃの数々。それは、誰もが疑うことなくその到来を信じていた幸せな未来の象徴である。
あのとき少年時代をすごし、いまは大人になった観客たちは、色あせぬこれらアイテムの輝きを見て、大切な何かが自分の心の中にちゃんと大切にしまわれていたことに気づき、幸せな気持ちになれるだろう。
この映画は明らかに、そうした世代をピンポイントに狙い撃ちした懐メロである。
サスペンスとしては、謎の「貨物」の正体に観客誰もが気づいていながら「そのもの」自体はなかなか登場させない王道のつくりで見ごたえあり。決して大見せ場や派手な映像があるわけではないが退屈しらず。
日常生活の中で、必死に大人たちに隠し事をして、子供たちだけで問題を解決しようとする、等身大の冒険が繰り広げられる。アドベンチャー映画とはこうでなくてはならぬ。なにもファンタジー世界を旅するだけが冒険ではない。
こういうストーリーテリング、演出はスピルバーグ映画の定型であり、効果はお墨付き。現代の子供たちにこれを体験させるのはとてもいいことだ。お父さんが夢中になって楽しんだものを、次の世代に伝えてやれる。最新作でそういうことが出来るならば、それに越したことはない。
事故シーンや人が死ぬ場面もあるから、幼稚園ではさすがにまだ早い。だがあなたに小学生の息子がいるならば、絶対にこの映画に連れて行くべきだ。そして父子で最新の映像スペクタクルを十分楽しんだ後、帰路で息子にこう語りかけてやろう。「俺が子供のころ、大好きだった映画があってな……。」