『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』60点(100点満点中)
2011年6月4日公開 全国東宝系 2011年/日本/カラー/125分/配給:東宝
総合プロデュース:秋元 康 原作・脚本:岩崎夏海 監督・脚本:田中誠 出演:前田敦子、瀬戸康史、峯岸みなみ、川口春奈、大泉洋
≪前田敦子の魅力爆発、これで1位は確実か≫
絶賛開催中のAKB48第3回選抜総選挙では、グループの代名詞的存在として引っ張ってきた前田敦子が2位に甘んじるという意外な途中結果が発表された。やはり顔より胸なのかと全女子を落胆させるところであったが、ミスター5500枚こと熱烈な大島優子ファンの存在が明らかになるなど、その要因はいまだ明らかではない。
もっとも武道館で行われる6月9日の最終開票日直前には、前田敦子初主演作『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が公開となるので、ここで彼女が逆転勝利を収めれば映画の興行も選挙も大変盛り上がること必至である。おそらくそんなシナリオになるのではないかと科学的に予想するが、これは私があっちゃん推しであるなどといった根も葉もない噂とはまったく関係がない。
友達思いの女子高生、川島みなみ(前田敦子)は、病弱な親友の代わりにマネージャーとして弱小野球部に入部した。だらけた部員や煮え切らない監督を前に思わず「あんたたちを甲子園に連れて行く」と宣言してしまったみなみは、マネージャー業務を勉強しようと本屋で指南書を探してもらう。ところが書店員(石塚英彦)の勘違いで経営学者ピーター・ドラッカーの「マネジメント」を買う羽目に。だがそのエッセンスを生かした野球部改革は、意外なことに目覚ましい成果を上げてゆく。
原作者の岩崎夏海は放送作家としてAKB48の育ての親でもあり、生みの親たる秋元康も当然本作の製作陣に名を連ねている。「もしドラ」はまさに純正AKB映画であり、また当然そうであるべき作品といえる。人気投票1位(予定)の前田敦子の記念すべき初主演作品でもあるから、ヒットを宿命づけられている。絶対に失敗はできない。
とはいえ、百恵ちゃんと友和くんがキスシーンを演じればたくさんお客が入った時代とは違い、アイドル界の巨艦たるAKB48といえど現在ではそう簡単に大ヒットは望めない。本来なら、選挙投票権を前売り券に抱き合わせれば興行成績ナンバーワンは100%確定であり、かつて当サイトでも似たようなことを提案した覚えがあるが、残念ながらそういう動きは見られない。さすがに映画館がガラガラなのに歴代興収1位となってしまってはまずいということか。CDでも大量買う奴がいるのだから、これは冗談ではなく、本当にそうなりかねない。
そこで結局本作は、さわやかな本格青春野球映画として、そこそこまっとうなつくりで登場することになった。
前田敦子は演技もそつなくこなしているし、なにより最強アイドルとしての自信から発せられる魅力はかけがえがない。たとえAKBなど知らない人が見ても、そこらの若手女優とは一線を画すオーラがあることがわかるだろう。最後の試合終了直後の表情などは、はっとさせるほどいい演技をしている。なおこの段落の文章については、私があっちゃん推しであるなどといった根も葉もない噂とはまったく関係がない。
ラストシーンの直後に流れるエンディング曲「Everyday、カチューシャ」の、どこかノスタルジーを感じさせるメロディーも感動を増幅させる。鑑賞後のさわやかな気分は、こうした映画が与えてくれる最大の贈り物である。
とはいえ、野球シーンの演出力の弱さは看過できない。たとえばフォアボールのときに、「投球→見逃し→ボール」を4回も繰り返すのをみれば、この映画の監督が野球映画に慣れていないということがすぐにわかる。こんなやり方をしたら、試合のテンポが落ちるだけだ。どうしても繰り返したいなら、捕手の捕球ショットだけを4つつなげば2秒で済む。とくに本作は投手役の瀬戸康史の投球フォームが素人丸出しなので、それを繰り返されるとたいへん萎える。
野球場面の描き方にはいろいろあるが、この映画は自軍敵軍どちらの心理も描いていない。これはもったいない話で、適切にそれを挟み込むことで試合シーンをいくらでも盛り上げることができる。本作においても、打ったり投げたりよりも、最終回に敬遠について監督が自らの主張を語るシーンのほうがずっと観客の胸を打つ事からそれはわかるはずだ。野球とは心理戦であり、スポーツというよりサスペンスを演出するほうが近い。
ちなみにNHKの「メジャー」シリーズは、子供アニメながら試合中の心理描写の上手さとその演出への利用法では国内の作品では群を抜く。今後野球映画を監督する方はぜひ研究していただきたい。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』は、野球シーンの弱さと笑いの間の取り方の下手さ、それに伴う感動シーンの中途半端さといった欠点はあるものの、それを補う役者たち(というかあっちゃん)のはつらつな魅力を味わえる一品。アイドル映画かくあるべしといった、よくできたレディメイドの味わいがある。なにより大画面でAKB48を見れば、少なくともCDを5500枚買うよりは、幸せな時間を過ごせるはずであろう(とさんざん利用させていただきましたが、5500枚ネタの真偽は不明です、念のため)。