『軽蔑』55点(100点満点中)
2011年6月4日(土)より、角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー 2011年/日本/カラー/135分/配給:角川映画
原作:中上健次 監督:廣木隆一 脚本:奥寺佐渡子 出演:高良健吾 鈴木杏 大森南朋 忍成修吾 村上淳

≪鈴木杏のヌードが話題≫

男と女は対等な関係を保ったまま愛し合えるのか。できる、と信ずる女の純愛を描いた『軽蔑』は、ヒロインを演じる鈴木杏の、初めてのヌードを含めた熱演が見もののドラマである。

新宿でばくちに明け暮れるチンピラ、カズ(高良健吾)は、歌舞伎町のダンスバーでナンバーワンの踊り子、真知子(鈴木杏)と惹かれあい駆け落ちする。「五分と五分だからね」と語った後に結ばれた二人は、その後カズの故郷へと向かう。しかしそこには、地元の名士で資産家のカズの両親や、彼にまとわりつく大勢の友人や女たちが待ち受けていた。

真知子が望むような関係は、このうざったい連中によって崩れゆき、二人の暮らしはやがて崩壊に向かう。逃亡先で徐々に明らかになる、互いを軽蔑しあう人間たちの構図。悲劇を予感させるこのドラマを、自身の代表作「ヴァイブレータ」(2003)をほうふつとさせる生々しいタッチで廣木隆一監督が描いてゆく。

男と女の関係に対等という文字はありうるのか。これは難しいテーマである。通常の人間関係ならば、金を出すほうが優位なのは鉄則だが、給料を稼ぎながらなぜか少額の小遣い制を導入している日本のお父さんたちの多くはそうではない。おしとやかで保守的に見える黒髪ロングの女の子と付き合ってみたら、いつの間にか飼い犬同然にあしらわれていたなどの例は、男性ならば枚挙にいとまがないであろう。

この物語の二人も、大金持ち(の両親をもつ)彼氏に経済的に結果的に依存する恰好の女が孤独な葛藤を強いられる。歌舞伎町の天女といえど、この町では添え物となる宿命なのだ。騎乗位で彼にまたがるその姿は、せめてセックスの主導権はとの思いが投影されたものだろうか。

さて、ここで鈴木杏について言及してこう。子役出身ながら最近では演技派への道を進む彼女は、今回ストリッパー役としてポールダンスを習得し、劇中でも披露。ただし努力はうかがえるものの、体は堅いし鈍重で、とてもダンサーには見えない。歌舞伎町ナンバーワン踊り子というよりは、小岩あたりの新人といった趣である。

体つきも、ウエストのくびれがなく胸も小さな幼児体型で、その種がお好みの方には良いだろうが、傍らにグラマラスな白人ヌードダンサーを引き連れてのダンスシーンは、廣木監督のサディスティックな好みかと思うほどに、ちょいと気の毒である。

そのあたりから予想できるように、濡れ場における腰つきもみるからにたどたどしく、きっと普段は受け身専門なんだろうなと下衆な勘繰りをしてしまうほどである。とはいえ、男性客の期待する部分はほぼ全部見せてくれるので、安心して映画館に出向いてほしい。常に男性読者にやさしい、ウェブ一親切な超映画批評である。

作品としては、二人が愛し合うまでの過程がすっ飛ばされているため、観客が何事かと思ううちにエモーショナルラブラブ劇が始まってしまう。冒頭の台湾料理店のシーンの会話が聞き取りにくい点もその印象を強めている。

共感を配した演出かと思ったがそうでもなく、結果的に主演二人の熱演を邪魔する格好になっている。終盤のある感動的な場面も、演技は良いのに観客の共感が追い付かず、冷静な目で見てしまう形。

二人の演技を見せたいならば、それなりにキャラクターに共感させる手順が必要。それをクリヤーしていたら、なお良かっただろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.