『ジャッカス3D』0点(100点満点中)
2011年5月6日、シネマサンシャイン池袋ほか全国公開 2010年/アメリカ/カラー/94分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
製作:スパイク・ジョーンズ、ジェフ・トレメイン、ジョニー・ノックスヴィル 監督:ジェフ・トレメイン 出演:ジョニー・ノックスヴィル バム・マージェラ スティーヴォー クリス・ポンティアス ウィーマン

≪この点数以外はむしろ失礼にあたる≫

福島原発敷地内に普段着で出かけて、そこで放射能を浴びると健康に良いと主張する博士が大人気のようである。おそらく実験の途中で人間とゴジラを間違えて数えてしまったんだと思うが、高名な文化人らも入信するなど大繁盛している模様だ。

このほかにも、1か月以上も発表に手間取ってるわりに、スピーディなどという冗談みたいな名前のシステムがあったり、最近の日本は芸人泣かせの天然キャラが跋扈している。

『ジャッカス3D』も、そんな芸人殺しの1本で、とくにリアクション芸で活躍するプロの人たちは、これを見たらちょっと自信をなくしかねない、それほどの過激版である。

『ジャッカス』シリーズとは、売れない俳優兼超一流のバカ、ジョニー・ノックスヴィルが、スタンガンを自分の股間で試す動画を作り、大好評だったことから始まった体当たりテレビ番組企画。いまでいうリアリティーショーというやつで、MTV史上最大のヒットとなったお笑い記録映像集のことである。

今回は映画版第3弾ということで、3Dとして登場。最新の映像技術による「アバター」以上の奥行き感、そして飛び出し感は圧倒的な迫力。毎秒1000コマの高級カメラによる鮮明スローモーションもふんだんに使用。次回のアカデミー賞3D部門はこれで決まりだ。

みんなで1800円払って、立体眼鏡をかけてこのバカ集団の排便や吐しゃ物を頭から浴びに行く、まさにさわやかな体験型ムービーである。食事前はもちろん、食事後に見ても気分が悪くなる、まさに全天候型の万能選手。全世界を見渡しても、黄土色の3Dムービーが興収トップを飾る国は、世界の警察、良識ある自由市民たちの国アメリカ以外にないだろう。

ちなみにマスコミ試写室は連日満員。だが終了時にはなぜか空席が目立つムー的現象が話題になった。私が見た回も、途中から不機嫌そうなおじさんの咳払いが客席で目立つ中、一人だけ最後まで笑っているという、非常にばつの悪い思いをさせられた。あまりの内容に震災直後に上映中止となりかけるも、せっかくの最新映像技術のお蔵入りはあんまりだということで、無事劇場公開が決定した。

さて、ニコ厨の総大将のごときジョニーさん一味が今回挑戦するのは、説明するのもバカバカしい自爆芸の数々。股間に硬球を打ち込んで全員で馬鹿笑いとか、そんなどうしようもないことを延々とやるのだが、相変わらず難易度は超A級である。

とくに私が気に入ったのは「孫娘へのキス」。正義感の強そうな若者の前で行うドッキリカメラだが、血縁関係があると思しき爺様とロリ少女が延々と18禁な行為をする様子は、この国ではまったくもってシャレにならない。

このほかには、「デブの汗カクテル」も素晴らしい。詳細についてはぜひ劇場にて。これは前半のハイライトだ。

もっとも、中には寒いばかりでまったく笑えないものも多いのだが、必死に編集したり段取りをやったりといった裏方の苦労を想像すると、心がじんわりとして思わずガンバレと言いたくなるのである。

というのはもちろん嘘だが、無駄な努力を重ねて笑いも取れないその惨状を、さらにあざ笑うくらいの性根がないと、このシリーズは楽しめない。

なんといってもこのシリーズは、弱者や障がい者を、むしろ進んで笑いものにするほどだ。俺たちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる憧れるゥを地で行くバカさ加減である。それはある意味、スポーツ選手への憧れと似ているかもしれない。たぶんこの分析は誤っている。

これをみてあえて馬鹿笑いをしていると、社会人として守らなくてはならないものから一時的に開放されるストレス解消の効果がある。その結果、むしろ秩序や道徳を守って生きることの大切さを知るのである。誰だって、こんなバカたちの仲間入りなどしたくはない。

回を重ねるごとに、求められる過激さがインフレ状態になってゆくのでつらいだろうが、彼らにはなんとか1年に1度くらいは日本でも映画版の公開をしてほしい。それ以上はしなくて結構だが。

私はこの作品を、まだジャッカス未体験の人々にこそ強く進めたい。ただし、くれぐれも気分が悪くなっても自己責任である。とくに、見ていると興奮してのどが渇く時があるが、飲むタイミングには要注意である。前方のお客様に迷惑をかけてしまってはさすがにまずい。

本作品は米国市場において、16億円の予算で100億円近い興収をあげた。映画会社のエリート社員たちが彼らにぺこぺこ頭を下げながら、次の脱糞量はもっと多めにしましょうかなどと相談している様子は、じつにシュールでよろしい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.