『GANTZ: PERFECT ANSWER』40点(100点満点中)
2011年4月23日より全国東宝系ロードショー 2011年/日本/カラー/141分/PG12 配給:東宝
原作:奥浩哉 監督:佐藤信介 脚本:渡辺雄介 出演:二宮和也 松山ケンイチ 吉高由里子 本郷奏多 夏菜

≪それではちいてんをはじめる≫

映画版GANTZは、前作の記事で書いた通り一般女性客向けであり、興行収入のみならず鑑賞後の満足度においても、そのターゲットの範囲内という意味では十分以上の成果を収めた。その成功を受け、この後編も当然ながらコンセプトは同じまま。原作ファンとしては残念だが、今回も蚊帳の外という印象は否めない。それを大前提として、見る方は挑んでいただきたい。

※以下には前作「GANTZ」(2010)および原作の仏像編のネタバレが含まれますのでご注意ください。

加藤や岸本を失った玄野(二宮和也)は、しかし彼らの遺志を継ぎ、メンバーを守り復活を期すための戦いを続けていた。一方、実世界ではなぜか加藤(松山ケンイチ)が復活、弟の待つ部屋に戻るものの、どこか様子がおかしい。やがて新たなミッションが始まるが、そのターゲットは星人ではなく玄野にとってよく知る人物であった。

後編は、噂通り原作とは全く異なるストーリーと結末が用意される。一番変わったのは、ラスボスとなる黒服たちが吸血鬼ではないということ。そして彼らの目的が、ドラゴンボールを集めてGANTZ部屋をつきとめようとしている点か。

アクションシーンは剣での戦いが中心。監督の好みということなのだろうが、最初のそれはよくできている。女子高生が活躍するスピーディーな殺陣は、いかにも日本漫画という感じでいい。しかし、剣アクションばかりにこだわりすぎるのも問題で、後半などは、刀を持つ敵に合わせるようにガンツソードを抜く姿に違和感が残る。腰の銃を使えばいいのに、君たちは江戸時代のお侍か。

CG、VFXも悪くはないが、ある人物を背負って逃げ回るシークエンスでは急に日曜朝の特撮ものレベルにクオリティが落ちる。女性客はそんなことを気にしないので、問題ないということだろうが。

次に脚本だが、問答無用で夜景付き賃貸マンションに集められ、恨みもない敵をぶち殺してこいという構図は徴兵制をほうふつとさせる。よって映画版にはそれを隠れたテーマとして織り込む手もあった。若松孝二監督あたりがGANTZを撮ればそんな反戦映画になって、それはそれで面白そうではある。だが日本では徴兵制復活などまったく現実味がないのでそうもいかない。

あるいは震災後の脚本であれば、フクシマ特攻隊についての作り手の主張などを盛り込めるので、社会風刺としての一面を持たせるのも容易であったろう。これほどの非常時に公開される作品ながら、本作にはそうしたオトナの含みが感じられず、軽い脚本であることがじつにタイミングが悪い。

それならば娯楽性を徹底的に高めてくれればと思うが、それもいまいち。なんといっても映像面、とくに構図が平板でセンスがない。その点では素晴らしい原作があるのに、生かし切れていない。

山田孝之演じる謎の男の正体も肩透かしで、おまけに物語上、いてもいなくてもどうでもいいやおいキャラとなっている。わざわざ映画オリジナルで出したのに、この残念感はどうしたものか。

人物、命の重み、絶望の深さを描けていないのも前作通りで、結局「二宮クンかっこいい、由里子ちゃんかわいい! 犠牲ステキ」の少女向けワールドである。

これに比べて漫画版では、岸本が加藤に抱きしめられたまま絶命するシーンなどは、あまりにも衝撃的なカットで夢に出るほどだ。直後、彼女の息が残っているかもしれないコンマ数秒以内によるミッションクリアに望みをかけ、千手に特攻を仕掛けて敗れる玄野──という流れは、この原作の凶悪性というべき絶望描写としては屈指の名場面である。

個人的には、奥浩哉自身、相当入れ込んで作り出したに違いない岸本があの時あっさり死んだ事に、同じ巨乳宗派の自分としてはショックを受けた次第である。なおこの段落の文章について、映画版公開にかこつけて言いたい事を書いているだけだろうとの批判については、あらかじめ圧倒的に正しいと返答しておく。

作者はこの映画版をどう感じているだろうか。もっと単純に男の観客が熱くなれる戦いの見せ場、謎と混乱に満ちた世界観、果てしなく広がるスケール感、そうしたものを堂々とした映像にしてほしかったのではないだろうか。そしてそれは、多くの原作ファンが共有する思いに違いない。



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