『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』70点(100点満点中)
THE CHRONICLES OF NARNIA: THE VOYAGE OF THE DAWN TREADER 2011年2月25日(金)TOHOシネマズ 日劇ほか全国超拡大ロードショー! 2010年/イギリス/カラー/113分/配給:20世紀フォックス映画
監督:マイケル・アプテッド 脚本:クリストファー・マーカス、スティーブン・マクフィーリー 原作:C.S.ルイス 出演:ベン・バーンズ エディ・イザ―ト スキャンダー・ケインズ

≪なんとか無事公開にこぎつけたファンタジー大作≫

「ナルニア国ものがたり」は聖書を下敷きにしたファンタジーということもあって、教訓的な一面を持っている。今回紹介する映画版3作目『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』は、とくにその傾向が強く感じられる。

現在日本では、ファンタジーやアニメの世界から戻ってこれない大人のおともだちが多数発生しており、ゆゆしき事態といわれているが、そうした国でこのファンタジー超大作をみると、なかなか新鮮である。めくるめく冒険の世界に酔わせた後に、「さあみんな、映画はこれで終わりだよ。元の暮らしに戻って頑張りなさい」と語りかける。そんな大きなお世話、いや親切なファンタジー作品は、いまどきあまりないだろう。

かつてナルニアで大活躍したエドマンド(スキャンダー・ケインズ)と妹ルーシー(ジョージー・ヘンリー)は、兄ピーターと姉スーザンが両親とアメリカに行ってしまったため、気難しいいとこのユースチス(ウィル・ポールター)の家に居候中。そんなある日、ユースチスの部屋の帆船の絵が入り口となり、兄妹とユースチスはナルニアの海へと誘われる。そこで旧知の王カスピアン(ベン・バーンズ)やネズミの騎士リーピチープらが乗る朝びらき丸に乗船した彼らは、成り行きから伝説の7つの剣を集める旅に同行する。

洋服ダンスだの壁の絵だのそこらじゅうに入り口ありすぎなナルニアへと、再び子供たちが移動する。今度は海洋アドベンチャーで、なんといっても美しい帆船朝びらき丸の勇姿がみどころ。この帆船は実物大サイズで実際に作られたもので、建築費は22億円もかかったという。それだけで邦画が10本作れてしまう、じつにバブリーな作品である。

とはいえこのシリーズは世界金融危機のあおりをもろにうけ、制作会社が降りてしまうなど一時は継続が危ぶまれていた。なんとか他社が引き継いで完成したものの、朝びらき丸ならぬ映画そのものが難破船になるところであった。1作目から6年、ようやく3作目までこぎつけたものの、原作(全7巻)すべてが映画化される日が果たしてくるのか、なんとも微妙である。

もっとも『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』じたいはそんな裏事情を吹き飛ばす見事な出来で、王道のアドベンチャー大作らしい風格を感じさせる。相変わらずキリストライオンは説教くさいが、島々を巡る冒険はわくわくするし、クライマックスの総力戦の戦いは観客ともども大いに燃えあがる。圧倒的なパワーを持つ怪物相手に、決してあきらめず戦い続ける男たちの姿が胸を震わせる。

4作目の主人公となるいとこのユースチスのキャラクターも立っている。最初は信じなかったナルニア世界を目の当たりにし、自身も意外な姿になってしまったにも関わらず、命がけで仲間のためつくす成長ぶりが感動を呼ぶ。

しかしながら一番の名演はネズ公のリーピチープか。彼が最後に子供たちに語るセリフは涙なしには見られない。この映画いちばんの名場面である。最優秀演技賞がCGネズミでいいのかどうかはわからないが。

ラストで子供たちが選ぶ意外な選択肢は、まさに冒頭で書いたメッセージそのもの。楽しくてスリル満点の冒険を体験することで、彼らはその正反対の日常生活のかけがえのなさを知る。自分自身の本当の価値とその限界を知る。この成長ぶり、これこそわが子を映画観に連れてきた親御さんが深くうなづく、見事な結論といえるだろう。

こうした良質なファンタジー作品を、小さいころから見て育てばきっといい子に育つのではあるまいか。



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