『KG カラテガール』65点(100点満点中)
KG 2011年2月5日(土) 横浜ブルク13、新宿バルト9ほかにてロードショー 2011年/日本/カラー/91分/配給:CJエンターテインメントジャパン ティ・ジョイ
監督:木村好克 脚本・アクション監督:西冬彦 出演:武田梨奈 飛松陽菜 中達也 入山法子

≪世界と戦う日本アクション≫

映画会社が次々と倒産する中、日本映画の先行きは不透明だと業界人の多くが認識している。映画は国境を越えたエンタテイメントであるからして、邦画もこれからは世界と戦っていかなくてはならない。そこは注射や中盆など存在しない、厳しいガチンコ市場である。

そこでふと考える。日本が世界に誇れるものは何だろうか。

「KG カラテガール」を木村好克監督とともに作り上げた西冬彦(脚本 アクション監督)は、「空手」と「女子高生」という二枚看板をこの最新作にも掲げた。「ハイキック・ガール!」(09年)で発掘しためっぽう強い美少女・武田梨奈を主演に、彼らは再び映画界の大乃国になるべく、ガチンコ格闘アクションを繰り広げる。

世界最強の紅空手の継承者(中達也)は、卑劣な格闘集団に襲われ、何より大切な黒帯を奪われてしまう。目の前で父と妹を奪われたもののなんとか生き残った彩夏(武田梨奈)は、素性を隠したまま普通の高校生として暮らしていたが、バイト先の映画館で空手の実力を披露したため組織に正体がばれてしまう。

物語の見どころの一つは、生き別れになった姉妹が成長して出会い、敵味方として対決する部分。ここで武田梨奈とやりあうのが、新人アクションスターの飛松陽菜。彼女は小学生のころ、先述の西冬彦に空手大会でスカウトされ、厳しい特訓を経て世に出てきた。

あんな強面のおじさんにいきなり声をかけられてさぞ怖い思いをしたに違いないが、頑張り屋のヒナティはそのしごきに健気についていったのだろう、今回、アクション女優としてほぼ完成された状態でデビューを果たした。

撮影時13歳ながら、空手の実力は折り紙つき。そのほか身軽さを生かした多数のスタントをこなしている。空中を歩くように3人を蹴り倒すアクションは、ワイヤーでも使ってるのかと思うほどの滞空時間を誇る。

機会あって、彼女の練習風景を見学したが、「お前は簡単にやりすぎる、それじゃダメだ」と怒鳴られていたのには笑った。上手すぎてダメ出しを食らうとは、気の毒にもほどがある。

彼女は三角蹴りもローリングソバットもたやすくこなしてしまうので、むしろその技の難しさ、凄みをどう「演技」して観客に伝えるかが今後の課題となりそうだ。なんとも贅沢な才能である。

一方リナティこと武田梨奈は、どこか孤高の武士を感じさせるというか、年齢を超えた気品を漂わせながらも見た目はごく平凡な女子高生という、稀有なキャラクターをものにしている。回し蹴りなど、体幹のスピンの速さは群を抜く。あれを見ると、やはり彼女はハイキックガールだなあと思う。この武道少女に、個人的にはコメディーをやらせてみたい。

女優としての彼女のいいところは、一対一の対決の時に映えるルックスと、女性らしくもよく通る声。飛松陽菜は、大勢の中で立ち回るアクションが似合っているので、この両者の共演はバランスがいい。

映画は、細かいことを考えずアクションをみてくれや式のおおらかなつくり。相手の黒帯が欲しいからといって、悪の空手集団を組織して襲撃するあたりからして確信的で笑える。そんなにほしけりゃ空き巣にでもはいるか、銃でも持って行けといいたくなるのが人情であろう。そんな事を突っ込みながら楽しむのが基本である。

マイナス点としては、良質素材のヒロインが二人いるものの、彼女らの飾りつけがやや甘い。武田梨奈はまだ5年は女子高生キャラで行けると思うが、それならもっとスカートを短くしたほうがいい。というのも、ハイキック時の布地のひらつきが、現状ではやや重ったるく見えるのである。アクションを美しく見せるにはあと少し短いほうがいいように思える。と同時に、ハイソックスはもう数センチ長くした美脚仕様でいきたいところ。それが、制服ファッションを美しく見せるポイントである。この映画には格闘のプロが多数かかわっているが、残念ながら女子高生のプロはいなかったと見える。

アクション面では、最終決戦にもう少し工夫が欲しい。それまでとは相手の身体の密度が圧倒的に異なるため(本物の重量級選手だから当然だが……)、細身の女の子が互角に戦う説得力の点でかなり厳しいものがある。これはたとえば、「この女の子の必殺のハイキックの威力は尋常ではないのだ」という前ふりのシーンなり伏線を、ひとつ入れておけば多少は改善できるだろう。

かわいすぎる空手家ふたりが堪能できる「KG カラテガール」は、世界と戦う日本のアクション映画の最前線に立っている。同じスタッフキャストによる「ハイキック・ガール!」(09年)と比較すると、相当洗練された印象を受ける。さらなる進化に期待したい。

演武的な、舞のような空手もいいが、殺人術に徹したアクションを突き詰めたものも見てみたい。そして、タランティーノあたりが目をつけそうな飛松陽菜の今後にも注目したいところだ。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.