『ハーモニー 心をつなぐ歌』70点(100点満点中)
Harmony 2011年1月22日、シネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか全国ロードショー 2010年/韓国/カラー/115分/配給: CJ Entertainment Japan
監督: カン・デギュ 出演:キム・ユンジン ナ・ムニ

≪韓国の力技に苦笑しつつも感心≫

『ハーモニー 心をつなぐ歌』は、韓流スターの来日時に空港に集まるようなお姉さまたちを対象にした映画なので、どう考えても私のようなひねくれ韓流ファンには向いていない。

そこで私は、知り合いの韓流ライターと共に試写室に出向く事にした。本作品本来の客層にドンぴしゃな彼女の意見を聞くことで、公平な記事を書くためである。よく誤解されがちなのだが、けっして彼女が美人人妻だからではない。

女子刑務所で男児ミヌを出産したジョンヘ(キム・ユンジン)には、生後18か月まで獄中で母子ともに暮らすことが規則で許されている。愛らしいミヌは同室の囚人からも愛され、その存在は比類のない癒しを彼女たちにもたらしていた。そんなある日、慰問合唱団に感動したジョンへは、自分たち女囚でも合唱団を作れないかと思いつき、理解者のコン刑務官(イ・ダヒ)に相談する。

のっけから口あんぐりのトンデモ設定に驚愕する。刑務所などと称してはいるが、かわいい赤ちゃんやテレビ、たくさんのおもちゃに囲まれた楽しげな部屋。そこで若くて美人の看守も一緒になって、パジャマ姿(いや囚人服だ)の女の子たちときゃあきゃあパーティをやっている。ちょいと厳しい別の刑務官がやってくると、大慌てで皆隠れる。

どこの修学旅行の見回りだよと、ショックを受けるオープニングである。

その後も突っ込みどころは絶え間がなく、ノーテンキな女囚コメディーが繰り広げられる。この刑務所、自由ありすぎで、なんともシュールである。日本のネットカフェ難民がみたら、こぞって入居依頼を出したくなるような楽しさだから参る。

女囚たちの描き方はある意味、筋が通っていて、基本的に彼女らは善人。死刑囚ですら、あわれな被害者扱いなのだから凄い。日本以上の格差社会といわれる韓国で、大衆の支持を集めるには手っ取り早い描き方とはいえ、この図々しさには頭が下がる。

だいたい彼女らは犯罪者であり、誰かを殺したり奪ったりしているはずだが、それに対する反省の念は描かれない。一歩間違えば、無責任極まりない刑務所映画である。

キャラクターたちも振るっていて、なかでも所長がいい。主人公が美人だからかは知らないが、単なるワガママとしか思えない合唱団設立希望も、刑務課長の反対を「まあまあ」と押し切り独断で許す始末。刑務所長というより、ただのやさしいおじさんである。

こんなアホ設定の映画なのだから、もうギャグにしかならないと思っていたが、映画の終盤、隣に座るくだんの韓流ライターをチラ見すると、かわいい泣き顔状態である。ああ、空港の韓流お姉さんたちと私とでは、こうも感受性に差があるのか。……と思ったが、どう見ても試写室内は女性だらけ、私こそが少数派である。自分の脳みその方に異常があったのかと、いささか不安になる瞬間だ。

ただ冷静に見るとこの映画、これほどの設定をもちながら、強引に泣きラストに持っていく力技には恐れ入るというほかない。「18か月過ぎれば、母子の別れが訪れる」という、最強のカードが用意されているとはいえ、それをいい意味で裏切るお涙ちょうだいの連続攻撃。そのクライマックスに至るまでには、おバカ設定にもすっかり慣れ、十二分に感情移入が済んでいる。ともすると、これは高度な計算に基づいた演出なのかもしれない。韓国映画恐るべし。



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