『トイレット』55点(100点満点中)
2010年8月28日(土)、新宿ピカデリー、銀座テアトルシネマ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー 2010年/日本・カナダ/カラー/35ミリ/アメリカンビスタ/ドルビーデジタル/109分 配給:ショウゲート/スールキートス
脚本・監督:荻上直子 撮影:マイケル・レブロン 衣装:堀越絹衣 出演:アレックス・ハウス タチアナ・マズラニー デイヴィッド・レンドル サチ・パーカー

≪弱いアイデアだけで、いきなり撮り始めたような印象≫

することは一緒なのに、どうしてこうも違うものが生まれるのか。各国のトイレ事情は、それだけで一冊本が出せるほどバラエティに富んでいる。便器の形や大きさはもちろん、紙で拭くのか水なのか、はたまた砂なのかといったところまで、さまざまな違いがある。

そんな中で日本トイレの特徴といえば、過剰なまでの無人くんサービス。水を流す音のでる機械はもちろん、近づけば勝手にふたが上がり、ワンタッチで便座のポリカバーが交換され、そしてご存知ウォシュレットに代表される温水洗浄システムさえ備える。

世界広しといえど、ここまでいたれりつくせりなトイレを発明した国は無い。完全個室の確固たるプライバシー保護思想も心地よく、最近では便所飯なる習慣も根付いている。中国のニーハオトイレでは絶対にできない、まさにシャイな日本人のための粋な慣習である(ちょっと違う)。

母親の葬式と自宅のトラブルを契機に、次男レイ(アレックス・ハウス)はひきこもりの兄(デヴィッド・レンドル)、女子大生の妹(タチアナ・マズラニー)と3人で暮らすことにした。ところが彼らの家には、母親が死の直前に日本から呼び寄せたという、レイは会ったことの無い祖母(もたいまさこ)がいた。英語がわからないのか一切コミュニケーションをとろうとしない彼女は、毎朝なぜかトイレから出るたび長いため息をつく。レイはそれが気になって仕方がなったが、他の兄妹は意にも介さず。どこか釈然とせぬまま、それでも奇妙な4人の共同生活は続いてゆく。

荻上直子監督の新作は、監督念願の米大陸(といっても経費節約のためアメリカでなくカナダ)で撮影された。家族なのに異文化を背景にもつ祖母と、それぞれ問題だらけの子供たちのとぼけた交流を、のんびりじっくりと描いてゆく。「トイレ」がその異文化交流の難しさの象徴となっている。

極端に言うと、「この外人一家、なんでばあちゃんだけ日本人なの?」の謎ときだけで109分間続く映画なので、ストーリーを楽しみたいタイプの人には向かない。台詞を語らぬもたいまさこのおばあちゃんの、どこか和的な癒しの雰囲気が魅力の作品といったところ。よって男性よりも、感性で感じ取ることのできる女性に向くはず。そうした人なら、見終わったとき「なんだか知らないけど、励まされた気分♪」となるだろう。

それにしても、映像をつなぐセンスはいいし、個性もあるし、映画作りのテクニックも感じられるのに、どうも個人的にはぴんとこない。コミカルなタッチはしかし笑いのツボを的確に刺激してくれず、見ているのがきつい。

とっぴなキャラクターの「秘密」が次々と提示されるものの、だから何?、の世界。しかるべき伏線もなければ魅力的な人間描写のエピソードも少ない。私の場合は、ついぞ彼らの誰一人に対しても共感を抱けなかった。それだけで判断するのもなんだが、これは相当見る人を選ぶだろう。

力はあるのに、冒頭に書いたようなトイレジョーク程度のアイデアだけで1本映画が撮れると思っているのだとしたら、まだまだ大きな期待はできそうにない。



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