『ルー=ガルー』10点(100点満点中)
Loups=Garous 2010年8月28日より新宿バルト9ほか全国ロードショー 2010年/日本/カラー/99分/配給:東映
監督:藤咲淳一 脚本:後藤みどり、ハラダサヤカ キャラクター原案:箸井地図 キャラクターデザイン・作画監督:石井明治 声の出演:沖佳苗 五十嵐裕美 井上麻里奈 沢城みゆき

≪京極夏彦作品の異色は、いまどきアニメの"フツー"≫

京極夏彦といえば、百鬼夜行(京極堂)シリーズに代表される、オカルト風味を取り入れた分厚い推理小説で知られる。

NHKの連続ドラマ「ゲゲゲの女房」の大好評でもわかるとおり、このところ日本では妖怪ネタが広く受け入れられる土壌が広がっているが、そんな事もあってか京極作品も大人気。「魍魎の匣」や「嗤う伊右衛門」といった作品は映画化されたし、アニメ化されたものもある。

そんな中、「ルー=ガルー 忌避すべき狼」は異色中の異色作として2001年に登場した。京極作品ながら近未来SFで、しかも美少女アクションの要素も含む。作品世界の設定をアニメ雑誌で公募するといった遊び心ある企画も異例であった。

ちなみに当時より私の周辺では、この作家のファンとライトノベルのそれはなぜか共通していた。どちらもほとんど読まない自分にその理由はよくわからなかったが、「ルー=ガルー 忌避すべき狼」の企画の話をきいたとき、すんなり合点がいったことだけは確かであった。そして今回、劇場用アニメーション化された事も、考えてみたら当然の成り行きという感じがする。

舞台は近未来の日本。この時代、子供たちはモニタと呼ばれる端末で、健康状態から現在位置まで完全管理され安全を確保されていた。買い物など日常生活のほとんどもこれさえあれば完結する便利さと引き換えに、リアルに人々と接触する機会は衰退の一途であった。14歳の葉月(声:沖佳苗)もそうした"物理接触"が苦手な一人だったが、同世代の少女ばかりを狙った連続殺人事件の最中にクラスメートが失踪し、これまで知らなかった「外の世界」に目を向けることになる。

製作はプロダクション I.G(「東のエデン 劇場版」ほか)&トランス・アーツ(「劇場版 テニスの王子様」ほか)、監督は藤咲淳一(「BLOOD+」)。アニメファンならそれなりに期待というか、安心感を得てもおかしくない布陣である。

しかし、私が最初に感じたのは、意外なことにそのアニメーション自体の品質の低さであった。劇場用のそれとしては動きも少なくスムースさにも欠ける。真新しい表現もなく、声優の演技もオーバー気味。絵柄の古さもあってか、10年前に出ていてもおかしくないような印象である。これはどうしたものか。予算の問題か、製作の問題なのか。

一般公募した世界観も、そもそも10年前の公募アイデアの限界か、いまでは陳腐さを感じさせるばかり。携帯かスマートフォンのごとき端末ごしにしかコミュニケーションを取れない若者、管理社会、そこから外れたアウトローたちの活躍……すっかりどこかでやりつくされた要素ばかりである。パーティーの終了間際にやってきて、残り物の料理をつついている気分になる。

事件の真相も、低質なアニメ画面の賜物か京極作品らしい「重さ」は掻き消え、もはや失笑ものというほかないレベル。いつから京極夏彦はラノベ原作者になったのかと勘違いされかねない出来栄えである。

というより、そのあたりの層を最初から狙っているのだろうから、これはこれでいいのかもしれないが。それにしても、そういうジャンルにもよしあしというものはある。なんにせよ本作はすべてが古臭い。美少女キャラクターも、高飛車ハッカーや寡黙な格闘少女など、ほとんど水戸黄門並のマンネリ感しか感じない。オタクは保守的というのが私の持論ではあるが、もう少し工夫してほしい。

結局のところ、発表時は京極夏彦の異色作、とされた本作も、いまどきのアニメとしてはあまりにも平凡。よほどの作品ファンでもなければ、積極的に見に行く理由は薄いだろう。



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