『エグザム』70点(100点満点中)
EXAM 2010年7/17(土)より渋谷シアターNにてレイトロードショー 2009年/イギリス/カラー/101分/16:9スコープサイズ/ドルビーSRD/字幕翻訳:尾山恵美 配給:クロックワークス
監督・脚本・製作:スチュアート・ヘイゼルダイン 出演:ルーク・マブリー ジミ・ミストリー コリン・サーモン ナタリー・コックス

≪こんな会社があったら嫌だ≫

英国発の傑作サスペンス『エグザム』は、しかし悲しいかな日本ではレイトショー公開である。内容は、非人道的な課題を押し付けるトンデモ企業の採用試験の様子を描いたもので、時節がらシャレにならないリアルさだ。やはりこういう映画こそ、大人が楽しむのにふさわしい。

ある企業の最終採用試験に、8人の男女が残った。彼らが集められたのは窓ひとつない殺風景な部屋。ひとつしかない出入り口には武装したガードマンが立っており、試験監督は奇妙な3つのルールを口頭で伝えると、さっさと部屋を出ていってしまった。怪訝な表情で各自が問題用紙を見ると、それはなんと白紙。大混乱に陥った8人は、先ほど聞いた「3つのルール」に抵触しない「互いに協力し合う」提案を誰からともなく行う。彼らは互いを完全に信用したわけではなかったが、このおかしな就職試験の謎解きに、とりあえずは共同して挑むのだった。

汚れたバスルームで拘束された状態で目覚める「SAW」、看守と囚人役を設定した社会実験「es [エス]」など、異常なシチュエーションで繰り広げられるスリラーには秀作が目立つ。『エグザム』の舞台はそうしたライバル作の中でもかなり限定的で、登場人物は両手の指で足りる数。目だったスターはおらず、撮影場所は試験部屋だけ。いかしたアイデアだけで勝負する、低予算映画の鑑のような作品である。

この会社が、どんな目的で、どんな条件で、どんな仕事をさせようというのか。それはまったくわからない。集まったメンバーから予測するにしても、これまたほとんど共通項がない。それぞれの専門分野、性格、みな違う。どう考えても、そこには採用側が目的とする人材像のようなものが見えてこない。これははたして、本当に「採用試験」なのか、あるいは……。

主人公のいないタイプの群像ドラマなので、観客も誰一人信用できない。こいつらが本当のことを言っているのか、はたまた企業側のスリーパーなのか、様々な疑問の回答を画面の隅々まで探しながら楽しめる、ガチンコの推理サスペンスでもある。先の展開はなかなか読めない。

個人的には、最初に思い付いた「解決策」をいつまでたっても誰も試そうとしてくれないのでイライラしたが、たいていの「アイデア」は劇中で登場するのでそれなりに納得。意外な形で「白紙問題」に挑む者もいて飽きさせない。これだけの独創性があれば、GoogleでもAppleでも好きに入社できるであろう。

やがて観客の予想を裏切り……というか予想通りというべきか、残りの人数が減るに連れて協力関係は崩れてゆく。合格者は限られているのだからそれは当然。果たして誰が「合格」するのか。それとも……。

この不況下、求人側も求職側も大変だ。ホントの条件を書けば一人も応募が集まらず、かといって現実以上に良く書こうものならブラック企業扱い。応募者とて、マシな職場には大量のライバルが集まるわけで、過酷な競争に神経をすり減らされる。マジメな人ほど重圧につぶされる、やっていられないという事になる。かくしてニート業界大繁盛、である。

そんな世界的傾向の中で生まれた『エグザム』は、いまどきの時代にぴったりな就職エンタテイメント。100社落ちても頑張り続ける「面接のベテラン」のアナタに、強くすすめたい一品だ。個人的にはそんなもののベテランにはなりたくないが……。



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