『エルム街の悪夢』70点(100点満点中)
A Nightmare on Elm Street 2010年6月26日(土)新宿ピカデリー他 全国ロードショー 2010年/アメリカ/カラー/95分/※R15指定 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:サミュエル・ベイヤー 脚本:ウェズリー・ストリック、エリック・ハイセラー 製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フーラー 出演:ジャッキー・アール・ヘイリー ルーニー・マーラ カイル・ガルナー ケイティ・キャシディ

≪マニア受けが悪そうな分、一般人には普通に楽しい≫

多くのホラーヒーローが活躍した80年代。ここ数年はあたかもブームのように、「ハロウィン」のブギーマンや「13日の金曜日」のジェイソンが、リメイクによりカムバックを果たした。そしていよいよ『エルム街の悪夢』のフレディが、満を持して登場する。

友人の一人が信じられない死に方をしたナンシー(ルーニー・マーラ)らエルム街の若者たちは、自分たちが被害者と同じ夢を見ていることに気づく。夢に登場するのは派手なストライプのセーターを着た男(ジャッキー・アール・ヘイリー)。この夢の中の不気味な男が、なんらかの鍵を握っているのだろうか。

オリジナルから時がたっているため、最も重要なフレディ・クルーガー役が御大ロバート・イングランドからジャッキー・アール・ヘイリーへと変更された。ジャッキー・アール・ヘイリーは、「がんばれ!ベアーズ」一連の作品で、強打者の不良少年の役をやっていた元子役。最近は「ウォッチメン」のロールシャッハ役などで再ブレイクを果たしている。苦労人だけに、キャリア最大といってもいい大役に対する意気込みは相当に強い。

新『エルム街の悪夢』の評価は、この新フレディを認めるかどうかの一点に尽きる。

夢の世界だけなら無敵の殺人鬼フレディ・クルーガーは、シリーズを重ねるにつれシニカルな笑いを誘うキャラクターとなったが、このリスタート版ではそうしたおふざけを捨て、ガチンコで怖い殺し屋になっている。殺人鬼になる前のクズっぷりも半端でなく、そのシャレのならなさが逆に笑いを呼ぶというよくわからない状況である。

とはいえ、最初にこのキャラクターを生み出したウェス・クレイヴンは、もとよりギャグタレントを作ったつもりはないわけだから、これぞ原点回帰といえなくもない。個人的にはマジメすぎて物足りない気もするのだが。

ホラー映画としては、カップルできゃあきゃあ盛り上がるための、どこにでもある定番品的なつくり。この映画に出てくる人たちは、大音響とともにスクリーンに登場しないと気が済まぬようで、見るとお母さんにしても友達にしても、なんでお前ら急に出てきてびびらせるんだよと100回くらいは突っ込みをいれなくてはならない。

フレディと対決するのは知的美少女とややオタの男女ペア。ありがちな組み合わせだが、ヒロイン役の新鋭ルーニー・マーラが意外な魅力を発揮し、目が離せない。

旧シリーズにのめりこみ、何か特別な思い入れを持つマニアックなファンは切り捨てられているが、一般的なターゲット層にとってはこれで十分か。上映時間も短く、無駄な被害者も残酷シーンもなく、出来のいいVFXを楽しめる。廊下が血の海に変わり、登場人物がのみこまれていく一連のシークエンスは、最近のホラー作品の中でも目を引く美しい、そして恐ろしい見せ場だ。

そもそもこの映画をみにくる過半数は、フレディ役が代わったことについてさえ、なんとも思いやしないライトユーザーだ。そこを喜ばせる映画作りは、それはそれで正義。リメイクなんてのはこんなもんよと笑う大物プロデューサーの顔が見えるようだ。



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