『サベイランス』60点(100点満点中)
Surveillance 2010年1月下旬 シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー 2007年/カナダ/98分/英語/35mm/カラー/ドルビーデジタル/シネマスコープ/配給:ファインフィルムズ
製作総指揮:デヴィッド・リンチ 監督:ジェニファー・リンチ 脚本:ジェニファー・リンチ、ケント・ハーパー 出演:ジュリア・オーモンド ビル・プルマン ライアン・シンプキンス ぺル・ジェームズ ケント・ハーパー マイケル・アイアンサンド

デヴィッド・リンチの反対を押し切った監督

鬼才デヴィッド・リンチ(製作総指揮)と、それに負けないくらい個性的な娘のジェニファー・リンチ監督が、父子協力して黒澤明の「羅生門」を撮る。そう聞いただけで、いいようのない疲労感を感じさせる、マニアにはたまらない一品。それが『サベイランス』だ。

サンタフェの田舎町でおきた殺人事件を捜査する二人のFBI捜査官、エリザベス(ジュリア・オーモンド)とサム(ビル・プルマン)は、現場に居合わせた3人の目撃者を聴取する。悪徳警官、麻薬中毒の女、8歳の少女と、どの証言者も一筋縄では行かない。それぞれが不都合な「真実」を懐に隠し持っている状況で、二人ははたして真実に迫れるのだろうか。

のっけから無音で、断片的な不気味映像、そして残酷シーンからはじまる。そんなところから、すでに異常な空気の映画だが、出てくる連中も一人残らず変な人間ばかりで、「リンチ映画」に身構えている観客をニヤリとさせる。ふむふむ、この程度ならなんてことはない。

……と思いつつ見ていくと、どうやら回想シーンには嘘がないルールらしきものも見えてくる。違和感ありまくりのキャラクターたちの嘘をどう見抜くか。こちらも脳内フル回転で画面に没頭する。もちろん終盤には予想外の展開が待ち受けていて、決して気持ちいい感動というわけではないが、それなりに心揺さぶられる体験をすることができる。

ただ、終わってみても、どうも完全に解明した気になれず、残尿感のごとき感情が心に残る。この後味の悪さを愛せる人にはぜひ勧めたいところ。

私としても、一度見ただけでこの作品を完全に読み解けたとは到底思えないが、数名いる目撃者の中で、唯一真相を見抜いた人物が何を見ていたかは、少なくとも作品のテーマと密接にかかわる重要ポイントだろう。

ぱっと見の残酷な殺戮劇にまどわされず、この人物は本質を見ていた。だから真相に気づいたのである。その本質たる感情を、この監督は賛美したいということであろう。

なおこのエンディングは、父親の反対を無理やり押し切ったものだという。つまり父と娘の解釈が唯一違う部分、娘のジェニファー監督ならではの個性が、ここにはこめられている。



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