『イングロリアス・バスターズ』60点(100点満点中)
Inglourious basterds 2009年11月20日より TOHOシネマズ日劇他にて全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/152分/配給:東宝東和
監督・脚本: クエンティン・タランティーノ 出演・ブラッド・ピット メラニー・ロラン クリストフ・ヴァルツ ダニエル・ブリュール イーライ・ロス ダイアン・クルーガー

ナチス兵がぶち殺されるさまを皆で楽しむ

ロッテリアの絶品バーガーのヒットを受け、本作も「つまらなくて途中退場した人は無料」キャンペーン(公開から4日間限定)を行うという。

同バーガーは、もしまずかったら半分食べる前なら返品可能、なる触れ込みで話題を呼んだが、この映画は5章立てなので、3章まで見てつまらなかったらどうぞご退場くださいということらしい。クエンティン・タランティーノ監督にとっても自信作だから、快く承諾したそうだ。

実のところ私が食べた絶品バーガーは、絶品というより絶句ものの味だったが、さすがに返金を言い出す気にはなれなかった。幸いにして『イングロリアス・バスターズ』はそれとは違い、タランティーノファンであれば、間違いなく楽しめるだろう。

昔、"ナチスに占領されていたフランスという場所に"、ショシャナという名のユダヤ人少女がいた。これまで彼女の家族はドイツ兵相手にもそれなりにうまく立ち回ってきたが、ユダヤハンターの異名を持つランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)は、一家に目をつけ猛烈なプレッシャーをかけてくる。

この少女がその後どうなるかは置いておくとして、まずこの序章はマカロニウェスタン風に始まる。その後もおよそこれまでの「ナチスもの」とは異なった作風で、暴走寸前のストーリーが繰り広げられる。

延々と続く意味ありげな会話のやりとり、無駄にスタイリッシュな殺戮シーン、無駄にドラマチックな物語展開、そしてそれらを平然とぶった切る潔さ。タランティーノの集大成というべき、彼らしさのつまった152分間である。

とくに、主人公たちがいったい何を使って総統ヒトラー一味を倒そうとするか、そこがポイントだ。思い切りはしょって言ってしまうと、本作は「ユダヤ人がナチス兵を大虐殺するトンデモアクション」だが、止めをさすのはタランティーノがもっとも愛するあるモノによって、というわけだ。ここに彼のロマンティシズムが込められている。

ユダヤ文化にはさほど詳しくないというタランティーノは、友人であり「ホステル」シリーズで注目される若手監督イーライ・ロスをアドバイザーとして招聘。同時に、劇中でも有数のキョーレツなお仕置きシーンを演じさせ、全ユダヤ人観客の溜飲を下げていただくおいしい(?)役目をプレゼントした。

主演・ブラッド・ピットは、ナチス兵を見つけ次第ぶち殺して回る特殊部隊のリーダー役。どこか抜けたおバカ的なキャラクターだが、持ち前のチャーミングさで魅力的に演じている。こういうアホ男が、異様に残酷かつリアルな虐殺場面を繰り返す。殺されるのがナチスという点が史実と逆になっているが、皮肉の意味も込めているのだろう。

それほど複雑な脚本ではないが、時間が長く登場人物も多いから、こうしたタランティーノ節が苦手な人にはちょいときついだろう。つまり、その逆の人であれば、多いに楽しめるはず。記憶力のいい人ならば、タイトルを含む様々な箇所で引用を発見する事もできるだろう。そして贅沢を言うならば、おそらく本作のような作品は、欧米の映画館で見たほうが、観客の反応も含め興味深く見られるのでないかと思う。



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