『バタフライ・エフェクト3/最後の選択』85点(100点満点中)
THE BUTTERFLY EFFECT 3:REVELATION 2009年10月17日(土)より銀座シネパトスにてロードショー 2009年/アメリカ/カラー/90分/配給:リベロ AMGエンタテイメント
監督:セス・グロスマン 制作:J・C・スピング 脚本:ホリー・プリクス 出演:クリス・カーマック レイチェル・マイナー ミア・セラフィノ サラ・ハーベル

シリーズ一作目に迫る名脚本

愛する女を救うため、何度でも過去に戻る男の物語「バタフライ・エフェクト」(04年)は、当サイトでも最高ランクの評価(98点)としたが、実際に見た人たちの満足度もきわめて高い傑作であった。あの映画の何がよかったかといえば、それは誰に聞いても脚本と回答がくる。その脚本家エリック・ブレスは、偶然にも今週公開の「ファイナル・デッドサーキット 3D」の脚本を担当。残念ながら(?)『バタフライ・エフェクト3/最後の選択』は別の人物がストーリーを書いている。

サム・リード(クリス・カーマック)は、時空を移動できる能力を生かし、警察の事件捜査に協力して生計を立てている。ゴールドバーグ教授(ケヴィン・ヨン)というよき助言者や、理解者である引きこもりの妹(レイチェル・マイナー)の全面協力により、安全・適切に「能力」を使い、彼は暮らしていた。そんなある日、10年前に殺された恋人レベッカの姉(サラ・ハーベル)がたずねてくる。彼女によれば、まもなく処刑される犯人の男が無実である証拠が見つかったため、なんとか真犯人を見つけ、彼を救ってほしいというのだ。

パート3と銘打たれているが、前作までとのつながりはない。シリーズを見てきた人にはおなじみの「過去に飛ぶ能力を持つ男」が主人公という、そこが共通点だ。

この3作目では面白いことに、主人公はすでに何人もの有能な協力者を味方につけ、能力の特性や弱点についてもかなりの部分、解明している。過去を変えても決していい結果にならないことも、試行錯誤の結果、理解している。これから必死にあがこうとしていた前作までの主人公たちとは、大きく異なる。彼らと比べ、すでに一段階成長した印象である。

そんな「ベテラン」の彼が、にっちもさっちもいかない状況でついに「禁」を破る。事件捜査の協力時でさえ、決して過去を変えようとせず「犯行時の様子を隠れて観察するだけ」に徹していたのに、レベッカ殺害犯をつきとめようと、そしてレベッカを救おうと過去を変えてしまうのである。

そこからはシリーズのテーマ、「バタフライ効果」の醍醐味を存分に味わえる。良かれと思ってしたことが、いい影響を与えるとは限らない。それどころかさらに悲惨な結果を招き、それを防ぐためにまた過去に戻るという、負のスパイラルに陥ってしまう。協力者たちとの関係、そして彼らの運命も次々と変わり、主人公自らの肉体にも大きな負担がのしかかってくる。果たして彼は、愛するものたちを救えるのだろうか。

1の焼き直しだったパート2とはえらい違いの、力の入った脚本である。主人公が「オレがバカなばかりに……」と嗚咽するシーンは涙なしでは見られず、その後の展開の衝撃度も高い。シリーズファンでも読みにくい、意外性の高い終盤を作り上げた脚本家、監督の手腕をたたえたい。「愛する者のため、何度でも過去に戻る」──よもやこの同じアイデアで、これほど面白いストーリーがまだ作れるとは思いもよらなかった。

伏線やヒントのばら撒き方も大胆で、しかもうまい。有名俳優はいないが、登場人物がそろってイケメン、美人揃いというのもよろしい。背景に流れる音楽もしっくりとくる。

愛する人のために、自分ではなく他者のためにやったのに、なぜうまく行かないのか。この世に神はいないのか。能力は慎重に使い、運命(すなわち神?)に敬意を払い、孤立もしておらず、万全を期していたはずなのに……。

あまりに切ないクライマックスは共感度100。パート1に感動した人は、必見の最新作。これは無条件でオススメしたい。



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