『ファイナル・デッドサーキット 3D』55点(100点満点中)
Final Destination: Death Trip 3D 2009年10月17日、新宿ピカデリーほか全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/90分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ
監督:デイヴィッド・リチャード・エリス 脚本:エリック・ブレス 出演:ボビー・カンポ シャンテル・ヴァンサンテン ヘイリー・ウェブ ニック・ザーノ

リアルな人間破壊シーンを最新デジタル3Dで

『ファイナル・デッドサーキット 3D』のメインイメージをみて、私は思わず噴き出した。エスカレーターの上で絶叫しているカップルの写真なのだが、なぜか「手すり」がない。一体全体なにがおきればこんな状況になるのか。これはさぞぶっ飛んだ「死に様」を見られるぞと、期待を高め試写室へと向かった。

恋人同士のニック(ボビー・カンポ)とローリ(シャンテル・ヴァンサンテン)は、サーキット場でレースを観戦していた。観客や、同行した友人らのボルテージがあがったころ、ニックはおそろしい「光景」を見る。車はクラッシュし、客席を巻きこんだ大惨事は、彼と友人らの命を残酷に奪う。あまりのリアルさにこれは予知夢だと直感した彼は、急ぎレース場を後にし、数名の命を救ったかに見えたが……。

立体メガネでこれを見る観客は、基本的に日本語吹き替え版を楽しむことになる。洋画を映画館で吹き替えで見るのは少々違和感がある上、声を当てるのが例によって知名度重視の有名人キャストなので、作品の魅力はいくらかスポイルされる。

ストーリー構成は言うまでもなく「ファイナル・デスティネーション」「デッドコースター」「ファイナル・デッドコースター」と続いてきた本シリーズ共通の雛形どおり。

主人公たちは予知能力でなんとか最初の危機を回避するが、死の運命からは逃れられず一人一人死んでいく、というものだ。その死に方は、揃いもそろってぐちゃぐちゃぺったんこの悪趣味なもので、死神さんもお人が悪いよといいたくなるものばかり。そもそも、最初に回避させて期待を持たせながら、もっと悲惨な死に様を用意するあたりが性格悪い。

しかし観客はその、寅さん級のマンネリズムに安心して劇場に足を運ぶのだ。息の長いシリーズに意外性など不要。次はどれだけ気持ち悪い絶命シーンが見られるか。それだけを楽しみにお客さんはやってくるのだから。

最大の見せ場であるオープニングの大事故は、メガネの立体感を存分に生かしたド派手なもので、ネジだのドライバーだの杭だのタイヤだのが、わざとらしく目の前まで飛び出してくる。どんだけいいかげんな保守点検ぶりだよと、レース場経営者に愚痴を言いたくなるほどのぶっ壊れぶりである。

本作は、なるべく大画面で、視界の端までスクリーンがくるくらい前列に陣取って見ることをすすめたい。そうすれば、飛んでくる肉片のディテールや人体爆裂の瞬間を、1秒たりとも見逃すことなく味わえるだろう。

ただ見て思うことは、笑いをもっと入れたらよかったのにということだ。ファイナル・デスティネーションシリーズはホラーではなくコメディなのだから、監督と脚本家が考えるべきは、「どうすれば客の笑いを取れるか」である。今回は、このシーン以外に爆笑を誘う場面はほとんどなく、厳しい評価とせざるを得ない。

前作でやりつくした、ピタゴラスイッチ式の複雑な死に方ももう飽きた。もっとウィットのある、シンプルで唐突な事故死を考案していただきたい。

4作目は立体映画の物珍しさでなんとか持ったが、このままでは次はセルフパロディ以外にやることがなくなる。ホラーではなくコメディ。これだけを肝に銘じて、次はさらなる過激版を作り上げてほしい。

ところでプレス資料には、「ホラー映画はデートに最適」などと書いてあるが、デートでこの映画に連れてこられ、人間が切断されるのを横で見てゲラゲラ笑っている彼氏を好きになる女性がはたしているかどうかは、微妙な問題である。



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